友情のはじまり
「ハギア!」
見上げる。
樹の上、である。
この島の樹には、枝がない。すっくと立った柱の頂点に、つまさきをのせて、ハギアは立っている。両足をきれいにそろえて、まるで樹の一部のように、姿勢よく。長い黒髪は、緊張した猫のようにぴんと張りつめている。
「朱里!」
高い声で返事をして、飛び降りる。
かろやかに、つまさき。一瞬遅れて、髪先。服のすそは、ふんわりと遅れて。
着ているのは、朱里がベレオで手に入れた服である。まっしろな布を、紐と木釦で締めたような。袖はなく、肩は前後の布をきゅっと持ち上げて木釦でとめてある。腰は帯のような白布で締めて、筒状の裾の中には、もう一枚、やはり真っ白なアンダースカート。何もかもが、ウェディングドレスのように白い。
緑がかったハギアの肌には、なんだか──、ふしぎに、似つかわしくみえる。
(わたしの服なのに)
ほんの少し、いやなものが頭をかすめて、朱里は眉をしかめた。どうせ。
「ここ、とても明るいのね」
屈託なく、顔を歪ませて。表情のつくりは、朱里の知っている地球人に近いようだ。それでも、感情の機微はよくわからない。喋り方は明るく、楽しげに聞こえるが、これだって翻訳機を通した声だ。
「そうね。……今更?」
ハギアが目覚めてから、もうずいぶん時間がたっている。……もっとも、体ごとつくり変えられた後だ。感覚も、ずいぶんかわってしまったのだろう。
「ね。……おなか、すいた」
「え?」
そういえば、もう昼だ。空腹を感じないので、わすれていた。
「そうね、えー、……」
手持ちの食料は、デイジーにもらった丸薬くらいしかない。
「……あなた、どんなものを食べるの?」
適応薬で、食性もかわっているかもしれない。そう思いながらも、とりあえず聞くしかなかった。
「どんなのものって……、」
ハギアは、きょとんとまばたきをして、考える。ほんの一日前まで、存在すらしていなかったまぶたを動かして。
「ふつう。好き嫌いはないよ、わたし」
「うーん……、」
「ね、海にいこうよ」
「え?」
「すぐ、そこでしょ。ねえ、はやく!」
くるくると、落ち着かなげに指をうごかしながら、ハギアは、歩きだした。




