表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界八景  作者: 楠羽毛
海の世界
120/206

友情のはじまり

「ハギア!」

 見上げる。

 樹の上、である。

 この島の樹には、枝がない。すっくと立った柱の頂点に、つまさきをのせて、ハギアは立っている。両足をきれいにそろえて、まるで樹の一部のように、姿勢よく。長い黒髪は、緊張した猫のようにぴんと張りつめている。

「朱里!」

 高い声で返事をして、飛び降りる。

 かろやかに、つまさき。一瞬遅れて、髪先。服のすそは、ふんわりと遅れて。

 着ているのは、朱里がベレオで手に入れた服である。まっしろな布を、紐と木釦で締めたような。袖はなく、肩は前後の布をきゅっと持ち上げて木釦でとめてある。腰は帯のような白布で締めて、筒状の裾の中には、もう一枚、やはり真っ白なアンダースカート。何もかもが、ウェディングドレスのように白い。

 緑がかったハギアの肌には、なんだか──、ふしぎに、似つかわしくみえる。

(わたしの服なのに)

 ほんの少し、いやなものが頭をかすめて、朱里は眉をしかめた。どうせ。

「ここ、とても明るいのね」

 屈託なく、顔を歪ませて。表情のつくりは、朱里の知っている地球人に近いようだ。それでも、感情の機微はよくわからない。喋り方は明るく、楽しげに聞こえるが、これだって翻訳機を通した声だ。

「そうね。……今更?」

 ハギアが目覚めてから、もうずいぶん時間がたっている。……もっとも、体ごとつくり変えられた後だ。感覚も、ずいぶんかわってしまったのだろう。

「ね。……おなか、すいた」

「え?」

 そういえば、もう昼だ。空腹を感じないので、わすれていた。

「そうね、えー、……」

 手持ちの食料は、デイジーにもらった丸薬くらいしかない。

「……あなた、どんなものを食べるの?」

 適応薬で、食性もかわっているかもしれない。そう思いながらも、とりあえず聞くしかなかった。

「どんなのものって……、」

 ハギアは、きょとんとまばたきをして、考える。ほんの一日前まで、存在すらしていなかったまぶたを動かして。

「ふつう。好き嫌いはないよ、わたし」

「うーん……、」

「ね、海にいこうよ」

「え?」

「すぐ、そこでしょ。ねえ、はやく!」

 くるくると、落ち着かなげに指をうごかしながら、ハギアは、歩きだした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ