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異世界八景  作者: 楠羽毛
海の世界
119/206

自在に動く髪

 適応薬は、よく効いたようだった。

 白い短髪が、床まで広がるようなあざやかな黒髪に。耳は朱里と同じかたちに、すらりと背が高くなり、やけに太かった脚は細く、手は小さくなって、全身に均整のとれた筋肉が。額にはちいさな白い角状の器官。肌は、わずかに緑がかって、細かいうろこのような模様が。

 目は、黒いひとみのある、ちょっと大きめの、ふつうの眼球に。

 まぶたと、まつげもできて、顔つきはまるで地球人。


 ぞわりと、髪が動いた。

 

「……ねえ、」

 朱里は、女の顔と、そのうしろに浮かぶカセイジンを交互に見ながら、もう一度手を振った。見えているのだろうか。それから、地面に広がった女の髪に目をおとす。蛇のように、ぞわぞわと波打って、かまくびをもたげて──、


 ──轟音!


 高い、高い音。朱里の耳を突き刺すように、どんどん高くなって、聞こえなくなっていく。

 いつのまにか、女は立ち上がっていた。二本の足で、すらりと、まっすぐに。

 口は閉じている。目はぱっちりと見開いて、空を見上げて。

 あの音は、どこから出しているのか──、


「ねえ、」

 女は、ぱちぱちと目をしばたかせて、いった。

「ここは、……外、なの?」

「え?」

 朱里は、あわてて立ち上がって女と目をあわせた。微笑んでいるような、曖昧な顔つきをして、こちらを見ている。いや、見ているのだろう、多分。

「あなたは……、」

 女は、朱里のほうをじっと見て、いった。

「外の世界の人、なの?」

「え、……」

 朱里は、カセイジンと目を見合わせた。

 翻訳機で言葉が通じるとはいえ、その意図まではわからない。並行世界の概念があるのか。それとも……、

 ともかく、曖昧に頷いておく。

「わたしは……、」

 くるりと、あたりを見回すようにしてから、

「わたしは、ハギア。ドレス生まれの。あなたは……」

 翻訳機をとおした声は、ひどく落ち着いてきこえる。

「……朱里。こっちは、──」

 いいかけて、カセイジンは他人には見えないことに気づく。

「なんでもない。あの……、体は、だいじょうぶ?」

「からだ……、」

 女は自分の胸を見下ろすようなしぐさをする。同時に、髪先がぞわりと持ち上がり、胴をつつく。

「……だいじょうぶ、みたい」

「そう……、」

 治療薬ではなく、適応薬。

 それも、不可逆の。

 ほんとうに大丈夫なのか。いや、なにが大丈夫なのか。

 ともかく。

「よろしくね、」


 と、いって、小さく愛想笑い。

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