見知らぬ体
ふたたび、数日後──、
*
(ねえ、大丈夫?)
だれかの声が、ハギアの耳にぐいぐいと染み込んで来る。
わんわんと反響して、脳にひびく。
(ずっと起きないけど……ていうか、これ、……本当に。)
女のようだが、知り合いの誰の声にも似ていない。
(……大丈夫、かなあ?)
声が、どんどん大きくなって、
暗転。
*
ず、ずず、と体から伸びたなにかが、床を覆っている。
髪だ、と気づくのに、すこし時間がかかった。
黒髪だ。
つぎに、黒が視えているのに、気づく。
明るい。
こんな強い光は、知らない。ハギアの生まれたところは、いつも闇ばかりで、ボンヤリとしていて、たいまつの光は直視するものではなく、目ではなく耳で、ものをみるのがあたりまえで──、
がば、と起きる。
ぱちぱちと、目のあたりが勝手にうごいて、視界が点滅する。つぎつぎに光がさしこんできて、パニックになりかける。目のまえに、なにか膜のようなものがある。
「起きたの?」
声。
だれかの。
もう一度、視界が明滅する。
知らない動作なのに違和感がない。体の感覚が違う。自分じゃないみたいだ。
「……ねえ、大丈夫?」
目の前に、誰かがいた。それが、見えた。目で。
人間。そう思う。確信はない。やけに背が高く、胴は太いわりに足が細くて、目も鼻も、ずいぶんへんな形。耳は丸くて、着ているものも、なんだか──、
「きこえてる?」
女が、そういった。
右手を、ハギアの目の前でふらふらと動かしながら。
ハギアは、反射的に顔をうごかして、頭上を視た。
空は、青く晴れ渡っていた。