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異世界八景  作者: 楠羽毛
海の世界
116/206

根のはえた天井

 ドレスの郊外。大街道をそれて、横穴通路をしばらくいった先。

 広場である。高さは、炉室と同じほど。天井からは、七本ほどの根と、それと同じ数の穴がある。残っているのは、細い木ばかり。

 深呼吸して、壁に手をかける。ざらざらして、少し暖かい。

 三回ほど探査音を発して、壁のしわを把握し、コースをきめる。

 とん、とん、とん、と手足をかけるところをイメージして、リズムを。

 さて。

 まず、胸のあたりの小さな割れ目に指をさしこんで、爪をたてる。

 足をかける。爪をたてた手にぐっと力をこめて、さらに先へ。

 左手を、頭上のちいさな突起にかける。

 右手の指先を、その上の襞に。


 汗が噴き出してくる。


 さらに、登る。

 もう、床はずいぶん遠い。だが、天井はずっと先だ。

 登る。


 登る──、


 天井にとりつく。

 ここからは、指の力だけで、身体を支えねばならない。

 天井のしわを、二本の指でつかむ。

 すべる。汗のせいだ。

 もう一度。今度は、指をめり込ませるようにして、爪を使う。

 爪のつけ根に体重がかかる。

 耐える。

 次の割れ目に、指をかける。爪をさす。それから、


 ぎりりと痛みがはしる。こらえる。


 二手。

 三手。

 もう少し──、


 汗ですべった。落ちそうになり、あわてて爪に力をこめる。ぐいと引く。そのまま、もう片方の手を、次の手がかりにおしあてる。滑る。

 気がつくと、両手が離れていた。

 空中で歯がみする。一瞬後に背中に衝撃、転がって受け身をとる。膝をしたたかに打って、小さく悲鳴。

 すぐに立ち上がる。血の味が、かすかに。

 顔を上にむけて、二回、探査音を発する。やはり、さっきのコースが最短だ。

 爪は、まだ大丈夫。もう一度。

 登る。

 天井に手をかけたところで、少し休む。肩も、膝も、特に問題はない。

 ちいさく跳ぶようにして、次の手がかりへ。

 襞をつかむ。

 からだを大きく振るようにしてはずみをつけ、次の突起へ。

 進む。

 空いたほうの手を振って、汗をとばす。


 次の手がかりは、根だ。


 根は、ほとんど枝分かれすることなく、幹と同じ太さのまま、天井から飛び出している。表面はつるつるして、いかにも滑りそうだ。

 爪をたててみる。刺さらない。天井や壁のように、柔らかくはない。


 が、……なんとかなりそうだ。

 

 根と、天井のあいだの、すきま。一見、ぴっちりとしていて空間は無いが、力いっぱい爪をさしこむと、天井がたわんで、うまく入っていく。

 体重をかける。

 根ではなく、天井の側に爪をたてるようにすれば、大丈夫そうだ。

 次の根まで、手はとどかない。しかし、足ならば、届きそうだ。

 根にかかった手を支点にして、ぐっと下半身をもちあげる。天井にはうようにして、足を、次の根にあてる。片手と両足で突っ張るようにして、からだを固定する。

 一息つく。

 肉に痛みはない。ないが、すこし息が切れた。

 同じ要領で、次へ進む。

 根を蹴る。

 手を伸ばす。


 ようやく、目的の穴に手が届く。


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