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閉じた浜辺
海にはもう、誰もいなかった。
ざぶ、ざぶ、と膝まで海水にはいって、じっとむこうを見る。
水平線ではない。
海岸から、およそ、百歩ほども進んだ先にあるのは、壁である。
壁は、そのまま天井につながっている。
もう少し、進んでみる。
なま暖かい水が、肩まで。思い切って潜る。水中では音がよく聞こえるから、かえって進みやすい。手を大きく動かして、泳ぐ。
壁の真下には、大きく蠕動する網状構造物。
この向こうに、地上からはわからない、海流のはげしく流れるところがあるらしい。
日に数度、この網が口をあけて、とらえた堆積物を吐き出すのである。
この海も、炉室と同じだ──、
海面から顔を出して、壁に手をかけて荒い息をつく。
これまで、仕事のあいまに、何度も潜ってみた。
網のむこうがどうなっているのか、だれも知らない。そのむこうにもまた壁があるだけかもしれない。
だが──、
「……わたし、決めた。」
誰にともなく、ハギアは、そうつぶやいた。