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異世界八景  作者: 楠羽毛
海の世界
110/206

骨の残骸

 道に迷った。

 いや、最初から迷っていたのかもしれない。太陽の位置で、だいたいの方向はつかんでいたつもりだ。が、本当にそうだったか。

 日が沈んでしまった。

 脚の痛みをこらえて、苔をふむ。

 単調な林。かすかに動くかげ、たぶん、蛇か虫。疲れて木に手をかけると、ざらりと、とげとげしい葉の感触が指にのこる。

 穴に落ちそうになり、あわてて足を戻す。

 ため息をつく。

 もうすぐ、完全に暗くなる。そうしたら、もう動けない。


 もう少しだけ、歩くか──、


 視界のすみで浮いているカセイジンに声をかけようとして、やめる。あんなの、ただの人形だ。肝心なときに、役にたたない。

 なんとなく、高いところへむかって、歩く。

 テント地は海岸だから、逆方向ではある。とはいえ、戻ろうにもどっちに降りていけばよいのかわからない。

 それに、高いところから見渡せば、現在地がつかめるかもしれない。

 頂上はひとつだ。たぶん。

 食料の心配もないし、スーツに着替えれば寒さも感じないのだから、テントに戻る必要もないといえば、ない。

 歩く。

 どのみち、野宿だと考えなおす。もう少しだけ、歩いたら──、

 かさり。

 足元の感触が変わった。苔ではない。落ち葉か。いや、ちょっと硬い、石のよう。がしゃんと、脆いものが崩れるような。

 目をこらす。少し先、ようすが変わっているようだ。もうずいぶんと暗くて、よくわからないが。ほんのちょっとだけ、ここより明るい。

 足元に注意を払いながら、速足で歩く。カセイジンが何かいいたげに寄ってくる。無視する。ほんの10メートルほど先、斜面。いや、近づくにつれて、はっきり見えてきた。斜面じゃない。ちょっと傾斜がきつくなっているのは確かだが、そこに、なにか建っている。

 洞窟、のような。いや、やはり建物だ。いびつで、歪んだ小屋が、いくつも積み重なっているようだ。木材を雑に組み合わせて溶接したような、ざらざらした輪郭。もうちょっと近寄ってみないと、よくわからない。

 その前に、なにかが立っている。

 人間ではない。もっと大きい。見上げるくらいだ。胴体は3つに分かれて、足は細く、後ろから、なにかが伸びてこっちを向いている。針、だろうか。

 蟻に似ていた。

 その、頭のうえに乗っているものが、ぴくりと動いた。

 うずくまった人間のように見えた。小柄な。

 動いて、こちらを見た。


 思わず、後ずさる。踵がなにかに当たって、足元をみる。

 頭蓋骨だった。たぶん、人間の。



 真夜中まで森のなかを走って、結局、うずくまって夜を明かした。

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