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ぶきみな遠吠え
結局、丸薬をのんだ。夜中、なにかの遠吠えで目がさめてしまい、どうしても眠れなかった。空腹は感じなくなったが、遠吠えはやまない。
高い、かすれたかなきり声のような音だった。
*
水をのみ、着替えて、のんびり海岸を歩いた。昨日のことがあったせいか、水に入る気にはなれない。
どうせ、しばらくは食料を探す必要もないのだ。いや、一週間というのが本当なら、この世界にいるあいだは、何も食べなくていいことになる。
つまらない。
蛇はなんどか見た。むこうは、こちらに興味がないらしく、目があうとすぐに逃げてしまう。虫もだ。
サンダルで砂をけって、歩く。
波の線は、きのうと変わらない。昼間も、夕方も。潮の満ち引きがあるはずだが、どうなっているのか。
海を見る。
水平線まで、なにも見えない。陸地も、もちろん船も。
(誰もいないのかなあ──、)
別に、無人の世界でもかまわないのだが。
ただ、少し、さみしいだけだ。




