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異世界八景  作者: 楠羽毛
夢の世界
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長い長い当直

 それから数日のあいだ、朱里は、デイジーベルで過ごした。

 足が痛くなるまで船内を歩き、機関室に入っては叫んだ。誰もいない居住空間の地図を作って遊んだ。もう何千年も使われていない図書室で、ホログラム・ブックを一日中めくって過ごした。

 疲れたら、そこらで眠った。起きると、いつもデイジーがかたわらにいた。

 食事は、デイジーが運んだ。どんなリクエストをしても、すぐに言ったものがでてきた。カレーライスには福神漬けがついて、ココアは砂糖たっぷりで。

 なぜだか、時計だけは、見せてくれなかった。

 二度ほど、夢をみた。砂漠の夢。それから、地底世界の夢。

 地球の夢は、見なかった。



「ねえ」

 最後の日、寝室で身じたくを整えて、荷物をまとめおえた朱里に、デイジーは、小さな声でいった。

「約束、……していただけませんか。」

「何を?」

 朱里は、ジャンプスーツの表面を撫でつけながら、聞き返した。やはり、この服はなんだか気持ちがわるい。空調のきいた快適な部屋で裸でいるような。

「いつか、……この船に戻って来ると。お願いします」

 朱里は目をぱちぱちとしばたかせて、それから眉をしかめた。

 じっと、デイジーをみつめる。あいかわらず、顔はみえない。けれども、かすかな肩の震えが、空気をとおして伝わってくる。

「……寂しいの?」

 たずねると、デイジーは、少し黙ってから、滲んだ声でこたえた。

「ええ。……わたし、さみしいんです。」

 それから、朱里がちいさく、「わかった。」とささやくと、ようやくデイジーは認識迷彩を解除して、素顔をみせた。


 かたい、きれいな、人形の顔を。

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