現場2
<<新潟県・群馬県境 三国峠上空>>
数機のCH-47J/JAチヌークが高度7000フィート(約2000m)を新潟県方面に向かって隊列をなして山脈越えしていた。
群馬県北群馬郡榛東村の相馬原駐屯地に配備された第12旅団所属第12ヘリコプター隊の航空部隊であり同駐屯地に配備されている第48普通科連隊の隊員を乗せて現場に急行している最中であった。
既に警察では対応困難な状況になりつつあるという知らせが無線で入っていて、到着すれば即戦闘になることは各隊員は自覚していた。
まさか自分たちが自衛隊初の戦闘に赴くなんて誰一人想像もしていなかったので心境は各員様々である。
しかもチヌーク1機では一個小隊まるごと運べるか否かが限界であり、それが5機もないので一個中隊も運べていないのである。
圧倒的輸送力不足によって不完全な状態で運ばれるのはなかなかの不安要素だった。
けれど第一ヘリコプター団や中部方面隊のヘリコプター隊もすぐ相馬原駐屯地に駆けつけるはずなので少しすれば後続のヘリが同第48普通科連隊の仲間を運んでくるのはわかっていた。
なのでとりあえず窓から山脈や原っぱ状態のスキー場を眺めながら降下するのを待つ。
<<新潟県 関越自動車道>>
陸上自衛隊第12旅団、第30普通科連隊の軽装甲機動車や高機動車、73式小型トラック、73式中型トラックなどが関越自動車道を通って南下を続けていた。
そうこうしていると目的のインターチェンジを通過して市街に入っていき、郊外で起きている現場に駆けつける。
その頃警察はゴブリンや突出した兵士を銃撃しつつ後退を続けていた。
新潟県の銃器対策部隊と警官隊はH&K MP5で無数に接近してくるゴブリンや兵士を攻撃し何とか寄せ付けないようにする。
豊和M1500を用いる狙撃手はオークなどの大型目標を率先して狙撃し頭を撃ち抜いて一体を撃破することに成功している。
なかでも何らかの経緯で一丁だけ配備してあった64式小銃は警察が持つ火器とは一線を画す程絶大な火力を発揮し突撃してくる大型生物などを抑え込む役割を担ってくれていた。
タアアン!タアアン!
タタアアアン!
64式小銃や豊和M1500から繰り出される7.62mm NATO弾は警察官が所持している回転式拳銃に装填される.38スペシャル弾のおよそ10倍のエネルギーがある。
さすがのオーガも7.62mm弾が当たると相当痛いらしく撃たれた場所を抑え突撃をやめて物影に隠れ始めた。
その間銃撃音が響き渡ると同時にスクエアから現れた軍団は長弓を用いて遠く離れた警官隊に弓の雨を降らせようとする。
これらの弓はほとんど当たらずに地面に転がったり比較的柔らかいものに刺さったりするが、2人が射られてしまい負傷する。
こうして戦線は膠着状態に陥るがここで軍団側が切り札を投入してくる。
それはオーガと同時にスクエアから召喚されてきた地龍であり、鎧を纏った超巨大トカゲとも言うべき姿をしていた。
それを見た警官隊は本能的に危険を察知する。
「あの怪物を狙撃しろ!撃ち抜けるか?」
警官隊の狙撃手はそう言われると豊和M1500を地龍に向けスコープ越しに捉えて狙いを定める。
64式小銃もスコープを装着してあるので64式小銃の射手も狙いを定める。
そして狙撃手達は一斉に地龍に対して銃撃を始めた。
とにかく急所らしき場所は徹底的に狙撃する。
それは眉間や口などの比較的弱そうな場所である。
だが狙撃手達はだんだん顔色が悪くなっていった。
銃弾は確かに地龍の甲殻を撃ち抜いている様子だが、効果が極めて薄そうだったのだ。
実際には確かに甲殻を撃ち抜いていたが甲殻を貫通する際に弾丸がかなり破壊されてしまいエネルギーを大きく損ねて内部にそこまで刺さっていなかったのだ。
そして地龍は鈍いものの全力ダッシュを始めた。
ドスンドスン!
巨体を支える足が重圧感のある低音を轟かせ巨大モンスターが突撃してきたことで打つ手なしの状態に陥る。
警官隊は急いでパトカーや装甲車に乗り込みバックを始め、乗れなかったものも全速力で退却を始めた。
そしてバリケードとして用いていた移動させなかったパトカーがダンプにはねられたように弾き出される。
地龍は今のところ余り興味がないのか特定の人を狙うような仕草をしていないものの走って逃げる警官隊は追い散らされてしまう。
この時軍団はある程度散開して市街に取り付き始めていたのでどの道警官隊は引かざるを得なかった。
そこへ陸上自衛隊の第30普通科連隊がようやく到着し、展開を始めた。
さっそく退却してきた警官隊から事情を聞き、遠方に見える地龍には通常の火器では歯が立たないことを知らされる。
そこで指揮官は73式小型トラック3台を全面配置して攻撃態勢に入る。
この73式小型トラックの銃座にはM2ブローニング機関銃が据え付けられていた。
「撃ち方始めえええ!」
ダダダ、ダダダダダダ、ダダダダダダ!
けたたましい銃声が鳴り響く。
M2ブローニング機関銃から発射される50口径12.7mm NATO弾の弾丸は非常に大きく7.62mm NATO弾の5.5倍のエネルギーがある。
これは厚さ10mmの鉄鋼板をたやすく貫通させるだけの威力が有り、銃弾はバスバスと音を立てて地龍の甲殻を貫通して内蔵に多大な危害を加えていく。
グアアアアア!
唸り声をあげた地龍はしばらく少し突撃を試みるもすぐに足を止めぐったりと横たわってしまい息をしなくなった。
それを見た軍団の兵士たちは徐々に戦意を損失していく様子が伺えた。
自衛隊の到着により戦況はより明確に推移し始める。
<<与那国島>>
夏になり強い日差しが降り注ぐ南国のこの島は日本最西端の国土であり、対中国における国防の最前線でもあったがある日を境に別の最前線にもなった。
スクエアの出現である。
「おい、イルカじゃねえば?」
漁船で荷物やカゴを出し入れする漁師の一人が言う。
仲間達は漁船から少し離れたところから僅かに水しぶきや黒い影のような物もがほんのかすかに見える。
漁の邪魔になりそうで苦言を言う漁師もいれば動物保護の観点で心配する漁師もいた。
しかしその会話の後、イルカと思っていた影が海面から顔を出したことでその場にいた漁師達は仰天することになる。
明らかにそれは人の姿だったからだ。
得体の知れないものに全員言葉を失ってしまう。
漁師たちがたじろぐ中は水中の影は徐々に陸地に近づいてくる。
そしてその影は漁船のふぐそこまで来るとまた海面から顔を出す。
それは2人組の女性だった。
しかし下半身が人のそれではないことは一目瞭然であった。
尾びれ、背びれを備えた流線型の胴体をし、一方の女性は脇に隙間のようなもの、というか十中八九鰓と思われる部位を持っていた。
いわゆるファンタジーで言うところの人魚である。
2人の人魚は漁師たちの様子をじっと見ていたが、漁師側に敵意がなく手を振ったり声をかけたりしてコミュニケーションを取ろうとする姿をみて更に漁船のすぐそこまで近づいてきた。
「やー、どこから来たんば?」
人魚も返答するが当然、全く違う言語だったため意思疎通することはできなかった。
だが徐々に人魚が慌てた様子で喋るようになり、終いに沖の方を指差して何かを訴えかけてきたとことで漁師たちもそちらの方に視線が移る。
何も見えなかったがやがて遠方から古代の船とも言うべき木造船が姿を表した。
それは船体からたくさんのオールが飛び出たガレー船だった。
「何だあれ?」
ガレー船の姿に漁師たちはキョトンとしてしまった。
そんな大昔のものがこんなところに現れるなんてあるわけ無いと思ったが、そもそも人魚が目の前にいる事自体通常ではなかったが、意識は完全にそっちに持って行かれていた。
漁師たちは人魚がガレー船を危険視していることを省みて漁船のエンジンを始動させガレー船とすれ違うように航行を始めた。
すると大量の矢がガレー船から飛び出してきたのである。
距離が有りすぎてほとんど当たらなかったが2本程度が漁船に当たりかごを貫通した。
人魚は漁船に随伴していく。
漁船の船長は急いで無線で漁協や仲間に状況を伝え、ガレー船から離れるように即す。
最初は信じてもらえなかったがガレー船が港に突っ込み乗っていた水夫や兵士達が上陸し周りを手当たりしだい攻撃し始めたことで与那国島全域にこの情報が正しく伝わった。
人魚は彼女たちだけではなくこの島にたくさん姿を表して襲ってきた船団から逃げているようだった。
<<陸上自衛隊 与那国駐屯地>>
与那国沿岸監視隊の警備小隊、30〜40人が装備を整え、89式小銃を持って駐屯地から出てくる。
既に与那国島の住民はサイレンや放送で駐屯地へ避難するよう誘導が始まっていて大勢の市民が駐屯地とその周辺へ流れ込んでいく。
島に二人しかいない警官は市民の誘導に専念したが、むしろ彼らにはそれしかできなかった。
ガレー船数隻からは500人以上の兵士たちが島に大挙して上陸しているのでニューナンブM60拳銃を2丁しか持たない彼らでは太刀打ちなんて不可能だったのだ。
ガレー船はオールで漕ぐだけに意外にも相当数の人数が乗り込んでいるので数隻だけでも上陸すれば大兵力になる。
駐屯地の警備小隊は駐屯地周辺を見渡せる地点に陣取り敵の軍勢が侵入しないように戦闘体制を整えた。
そして島中の住民が姿を消した頃、軍勢は島の南部にある駐屯地へ向けて前進を開始した。
陸上自衛隊員達は89式小銃やミニミ軽機関銃の二脚を地面に固定して敵の侵攻経路に狙いを定める。
既に治安出動と迷わず撃てとの司令を受け取っていて躊躇は一切いらないガチンコ勝負だ。
そして軍勢は予想通りのルートを通って現れた。
両者の距離が300mを切った当たりで号令がかかる。
「撃てええええ」
タタタタン!
タン、タン、タン!
タタン!
タン、タタン!
自衛隊側の一斉射撃で敵の前衛が一瞬で蒸発する。
敵は見えない位置から致命的な攻撃を受け、潰走を始めた。
一気に50人を損失した敵は遠方で体制を立て直すと今度は視界を切るように森や遮蔽物に隠れながら進み始めたので、自衛隊側は陣形を変えて後退する。
けれど重火器で武装する自衛隊の敵ではなかった。
侵攻してきた軍勢が手詰まりになる頃、上空に編隊で飛来してくる航空部隊が現れた。
陸上自衛隊のMV-22オスプレイの編隊で水陸機動団の増援部隊を乗せて長距離進軍してやってきたのだ。
これはオスプレイならではの芸当であり、こんな航続力は一般のヘリには不可能だった。
その姿をみた軍勢は見覚えがあるのかないのか何かを連想して後退を始めた。
オスプレイが駐屯地に着陸し、一気に戦力を増やしたところで今度は自衛隊側が攻勢に転じ、進軍を開始する。
戦闘は本州でも沖縄でも日本の圧倒的優勢だった。