発端
西暦20〇〇年、初夏
日本国、新潟県のとある市町村。
まだセミの鳴き声が鳴り始める前の上旬、気温が徐々に高くなっていく時期だった。
見渡す限り水田が広がる田園地帯で地平線には目立つ山が2つそびえるようにたたずむそんなどこにでもあるようなのどかな田舎町だ。
けれどある出来事を境に日本どころか世界を揺るがす事象の最前線と化すのだった。
田舎の市道を走る軽トラックがあった。
その軽トラックに乗る初老にさしかかるくらいのおじさんが第一目撃者だった。
「何だあれ?」
軽トラックを止め下りて見入る。
そこにはミステリーサークルのような、もしくは魔法陣のような奇妙な陣地が地面に光りながら出現していた。
そしてそれは更に増光しまばゆい光で周囲が包まれる。
男性は一瞬眩しくて目を閉じたが次に目を開けた時信じられない光景が広がっていた。
<<最寄りの警察署>>
それから少しだけ時間が経った頃、警察署に県の指令センターから指示が入る。
「ええ、〇〇市〇〇で暴動を発生した模様。仮装をした奇妙な暴徒集団が近隣の民家を襲い負傷者が発生しています。なお、暴徒は数千人を超える模様で刃物で武装しており、同じ暴徒集団同士で小競り合いも起こしているようです。各市町村、及び県警本部にも出動要請を伝達しています。管内である〇〇警察署からはできる限り人員を動員して対処してください。」
当の警察署員は突飛もない内容に何度も聞き返してしまうが情報が錯綜しているせいかオペレーター側もしどろもどろ説明するなど想像力を振り絞っても状況がの署員達が次々パトカーに走っていき、乗車すると暴動発生地に出動した。
<<陸上自衛隊 新潟県新発田駐屯地、中部方面隊、第12旅団、第30普通科連隊>>
自衛官達がいつものように訓練に明け暮れている時だった。
突然放送で各隊員に招集がかかり皆一目散で走り出し、装備を整え集合地点に向かう。
そこで点呼や部隊長の実戦に際した短い訓示の後、任務の内容が説明された。
しかしその内容に皆唖然とする。
何のことだかさっぱりな様子だったが、政府が治安出動待機命令を通り越して直で治安出動を命じていたこともあり、自衛官達は判然としないものの実戦任務に緊張が高まりつつあった。
そして自衛官達は高機動車や軽装甲機動車に乗って現場へ出動していく。
この時高田駐屯地の同じ第12旅団に属する第2普通科連隊も出動していた。
<<内閣府安全保障会議 緊急会議>>
「でありまして現在県警と各市町村の警察署が対応に回っていますがとても手に負えず、周辺の封鎖や局所的な防備を固めるので精一杯のようです。なにぶん数が多く出現した暴徒も二勢力に分かれているようでどう対応するかで意見が割れています。ここは自衛隊の普通科連隊が到着するまで事態の打開は難しいかと。」
「そうか。これ以上被害が広がらないようなんとかしたところだ。ところで...」
政府のトップ達が話しているなか会議室に制服組自衛官が急いで入ってくる。
「報告します。暴徒が国内の別の地点でも発生しました!」
その言葉に会議室にいた政府のトップ達が驚く。
「なんだと!他にも例のものが出現したというのか?どこなんだ?」
「はい。愛媛県と沖縄県与那国島の沖です!」
「状況は?」
「愛媛の暴徒は武装していないものがほとんどいないようで穏やかですが与那国沖では多数の帆船が出現し、与那国島に上陸を図っているようです」
「何だそれは?」
「また愛媛県知事は新潟の事態から即座に治安出動を要請していますが、沖縄県知事は治安出動は要請しないと声明を発表しました」
「あの爺、この機に及んでもまだイデオロギーを露骨にするとは...」
「与那国市民を見捨てるような発言だ」
大臣たちがイライラしながら発言すると上座のような場所に座る人物が発言する。
「わかりました。では単刀直入で皆さんにお聞きします。愛媛県知事の要請を受諾するのと同時に沖縄県に対しては内閣府から直に治安出動を命じる対応取る形でいこうと思いますが、出席者の採決をしていいですかな?」
「異論ありません」
「同じく」
各大臣や官房長官など主だった出席者達に異論はなかった。
「では統合幕僚長、内閣総理大臣の命令で治安出動を命じます。対応をお願いします」
「わかりました」
「それと暴徒の出現場所はなんと呼称しているのですか?何かしらの代名詞か固有名詞で呼びたいのですが」
「我々も特に決めているわけではないのですが、アメリカ軍側の当局者達が既に呼称を決めていまして語呂が良いので我々も暫定的にその呼称を使っています」
少し間が開く。
「彼らはこう呼んでいます。”陣”と」
「スクエアですか。では当分それでいきましょう」
総理大臣と話し終えた統合幕僚長が一時的に離席する。
かくして物語は大きく動き出した。