part2
同日 IK所属輸送機
軍事基地が遠ざかるのを確認して、IKはヘリの扉を閉める。背負っていた大剣を粒子状に分解し、椅子に座って一息つく。
「お疲れ様です」
IKの横で、全く心が籠っていない労わりの言葉が聞こえてくる。
紫色の長髪をした女性が右手で携帯ゲーム機を操作しながら、左手で板チョコをIKに渡す。着ている服はスーツで、シベリアみたいな酷寒の地での格好ではない。
「こんな時でもゲームやってるのかよ…」
「はい。ゲームはいつどこでしていても楽しめる神の創作物です」
IKはため息をこぼしながら、鬼仮面を外す。
中から幼さの残る少年の顔が現れた。髪の毛は灰色で、ミステリアスな雰囲気を醸し出している。
「ホント、どっちが主人か分からなくなるよ」
IKは銀紙をはがす。中からは、カチコチに冷えた板チョコが歓迎してくれた。
「そんな事ないですよ。いつも私は、IK様の事を尊敬しています……よ?」
「なんで変な間を空けた。それに優柔不断でお人好しっとか、こっそり言っていたらしいけど」
「全く…誰からの情報なんですか?」
「事実なんだね」
「ハイ」
女性は一切悪びれる様子もなく、肯定した。
IKはこれ以上追及するのを諦めた。手に持つチョコレートを口の中に入れる。
だが、ヘリの中とは言えここはロシア。チョコレートは、鉄のように固くなっていた。
「ところで、先日募集していました助手について、招待のメールを送りました」
女性はゲーム画面を見つめたまま、仕事の報告を述べる。
IKは、女性に耳を傾けながら、チョコレートを噛み砕こうと四苦八苦していた。
「あひがとう。春もそおそおだな」
IKは大好物のお菓子を頬張って、女性に礼を言った。
こうしてIK・本名糸巻鬼縁の日常業務は無事終了した。