第58話
先に試験が終わった俺は、アリス達の試験を観戦しつつ横で見ている父さんに対し、「今度は、本気の勝負をしようよ」と言った。
「そうだね。まあ、その勝負はクリフがAランクに上がった時にしようか」
「何で、Aランクに上がってじゃないと真剣勝負してくれないの?」
「しないって言うよりも、クリフ。今のクリフと父さんが真剣で戦ったとしても父さんが絶対に勝つよ?」
その時の父さんの目は、マジな目をしていた。言い返そうと俺が言おうと思った瞬間、会場の方から大きな音がした。そして、音がした方をみるとアリスが倒れていた。倒れたアリスに笑いながらアルティマさんが近づいて行った。
「惜しかったな、アリス。でも、まだ父さんには勝てなかったなッ!」
「う~、今日は行けると思ったのに……父さん、いつか絶対に僕が倒して見せるからなッ!」
「おうッ! いつでも、かかってこい!」
アルティマさんは、倒れているアリスを肩に担ぎこちらに来た。そして、父さん同士で楽しく会話を始めたので、俺はアリスに近づき回復魔法を掛けながら「大丈夫か?」と話しかけた。
「大丈夫だよ。クリフ君、ありがとう。でもな~、今日こそは僕勝てると思ったのに……って、ミケちゃんはまだ試験中?」
「そうみたいだな、でもミケとミケの父さんの試合早すぎてジックリみると目が疲れるんだよな」
そう言って、未だ戦い続けているミケの方を見た。ミケとミケの父さんは、獣人族が使う【獣化】という固有能力に分類される能力を使っているみたいでお互いがいつもの姿より獣の姿に近い、そして獣の姿の2人は素早い動きで戦闘を繰り広げていた。
「うわ~、ミケちゃんあんなに早かったんだ。ビックリ」
「ああ、俺も驚いているよ。でも、ミケの父さんはミケ以上に速いな」
ミケと同じく【獣化】しているミケの父さんは、ミケ以上に獣に近い姿で戦っていた。そして、ミケ以上に素早くミケの攻撃に合わせて難なく躱していた。
「これが、Sランクの人達の実力じゃないんだから恐ろしいな……」
「そうだね。僕もこれから頑張らなくちゃ!」
「ああ、俺もこれまで以上に鍛錬に勤しむか」
そう俺とアリスが決心してから数分後、ミケの父さんの蹴りで吹っ飛んだミケは起き上がろうとしたが倒れてしまい、試験は終わった。倒れたミケに俺は回復魔法を掛け、気絶しているミケが起き上がるのを待った。
「んっ、……負けちゃった」
「そうだな、でも凄かったなミケ。めっちゃ早かったじゃないか」
「ありがとう。でも、私まだ【獣化】に慣れて無くて体力の消耗が激しくて筋肉痛になるんだよね。いたたた」
目を覚ましたミケは、起き上がりながらそう言って筋肉痛で痛いのか腕や足をさすりながら立ち上がった。
「クリフ君、アリスさん、ミケさん。試験お疲れさまでした。今回の試験結果は、後日ギルドへお越しいただいた時にお伝えしますので本日は、ご自宅で休養なさってください」
「はい、分かりました」
俺がアリスとミケの代表でそう言って、俺達は父さん達とは別で先に家に帰って行った。家に着いた俺は、直ぐに裏庭に行った。裏庭に着いた俺は、土魔法で大きな剣を作り、素振りを始めた。
「999ッ、1000ッ!」
丁度1000回振った段階で後ろから誰かが来る気配を感じ、土魔法で作った剣を元の土に戻し汗を服で拭き、後ろを振り返った。
「何、爺ちゃん?」
「クリムに勝ったから喜んでおると思っておったんじゃが、その様子じゃと喜んではおらんようじゃな」
「そうだね。呪いで能力値を下げた父さんに勝った所で嬉しくも何とも無いよ。確かに能力値が低下している父さんは、十分に強かったけど、それでも嬉しさは微塵も感じない」
「そうか……のう、クリフよ。クリフが今貯め込んで居る【善行ポイント】なる物を上手く使えば今より格段に強くなるんじゃないかの?」
爺ちゃんは、俺が前に教えた【善行ポイント】の事を思い出し、そう言ってきた。
「どうだろうね。確かに少しずつ使ってはいたけど、まだ2万以上のポイントが残っているからやろうと思えば、行けると思うけどいざ他に必要になった時、無かったら何もできないのは嫌なんだよね」
「ふむ、しかしクリフ。今、強く成らんとこの先強敵が現れた時に、ポイント使ってもたりなかったらどうするんじゃ? それにのう。クリフ、クリフのその言葉聞いてきたが本当にそう思っておるのか?」
「……」
爺ちゃんの言葉に俺は何も言えなかった。これまで俺が『この先、いつか必要な時にポイントを使う』と言ってきたのは、本当は『今の自分に足りない物が良く分からない』からであった。
自分に何が必要なのか、自分に足りてない物は何なのか、全く分からない。
「爺ちゃん、本当は俺どうしたら良いか分かんないんだよね」
「やっぱりのう。クリフ、儂はクリフの爺ちゃんじゃ、分からないことがあれば何でも聞くんじゃ」
そう言った爺ちゃんは、いつもの持っている杖を天に掲げると杖先から強い光が出て俺と爺ちゃんを光が包みこんだ。
頼れる爺ちゃん。