第56話
ギルド長の試合の合図が試験会場に鳴り響いた。合図が鳴った瞬間、【狂戦士】アルティマさんが自前の槍で突撃してきた。
「お父さん、今日こそ勝つからね!」
そう叫び、アリスは突撃してくるアルティマさんをガルフさんの所で作ってもらった剣で弾き返し、槍対剣の攻防が始まった。流石はSランク冒険者、学園でも剣の扱いでは有名だったアリスの剣さばきを軽く受け流している。
「クリフ、私達も始めようか」
「そうだね。それじゃ、ミケも頑張って来いよ」
アリス達の試合を観察していた俺に向かって瞬時に俺の懐まで近づいてきた父さんにそう言われた俺は、敏捷4000の力と火と水を両方一気に出し煙を出し姿を見せないようにし、距離を取った。
距離を取れた俺は、剣を構え父さんへと斬りかかった。
「5年前の試合から一度もしてくれなかったけど、相当腕を上げたみたいだね」
「そりゃ、どうもッ、父さんも昔より剣が重くなってるな」
「そりゃそうだよ。私は、これでも貴族の仕事と掛け持ちだけどSランクの冒険者としても色々とやってきてるからね。5年もあれば普通の私でも強くなるさ」
「何が、普通だっての、俺よりチートな癖にッ!」
重い攻撃を何とか凌いでいる俺に対し、父さんは喋り掛ける余裕を見せていた。確かに父さんとの実力差は、分かっていたけどここまでされると色々と思う所がある。こっちだって、5年間頑張って来たんだ。舐められたまま、終われるわけがない。
「ねえ、父さん、この試合、何でもあり、何だよね」
「そうだね。クリフ達は、何でも使って良いからとにかく昇級出来る点数を稼がないと」
「そう。分かっ、た。よッ―――」
父さんの攻撃を受けながら喋るのは相当きつかったけど、ちゃんと父さんの了承は得た。だから、俺は〖なんでもいいから、父さんにダメージが当たる技をしよう〗と考え、無詠唱での10連発の火の玉を至近距離から父さんに向けて放った。
「わっ! 危なかった」
「ちっ、避けたか、まあ分かってたけどな!」
10㎝も距離を開けてない場所からの魔法攻撃を躱した父さんに向けてちょっとイラッときたが、分かり切っての攻撃だったから次の攻撃を仕向けた。次にした攻撃は、聖属性に進化した光魔法で父さんの目、1㎝前に強い光を発生させた。父さんは、いきなりの光で「うっ!」と呻き、目を瞑った。
ここでチャンスだと思って斬りかかると反撃されるのは目に見えていたので更に土属性での足場を性質変化を使い泥に変え足場を崩させ、更に氷魔法で肩まで凍らせた。
「はあッ! くらえッ!」
叫びながら、父さんに向かって攻撃しに行く俺、それに対し父さんは一瞬にして肩まで凍っていた体を一瞬にして溶かし俺に向かって剣を振った。父さんの剣は、俺の頭に当たり、そのまま俺から魔力が散らばった。
「やっぱり、幻だったかクリフ何処に居るんだい?」
「……」
幻の俺は、父さんの剣一振りで消え去った。それを俺は、試験会場の天井にて静かに見ていた。
(やっぱり、魔法も剣術も全く効かないか……どうしたものか)
アリスの方は相当苦戦してる様だ。ミケの方の戦いは、動きが両者早すぎて目で見るのは疲れ、探知魔法で確認するとミケが押されてはいるけどちゃんと戦えていだった。
(仕方ない。こうなりゃ、ヤケだ全力振り絞って父さんと戦うか)
俺は、そう決めて強化魔法を使い。敏捷を強化し、【空歩】を使い。一瞬にして父さんの頭上から剣で斬りかかった。しかし、その剣は当たると思った瞬間に父さんの剣に受け止められた。
「このクリフは、本物の様だね。でも、いつ幻と入れかかったんだい?」
「最初だよ。煙を作った時に慣れてない闇魔法を使って作ったんだよ。その後は、ずっと【空歩】を使って観察してた」
「【空歩】って、いつ手に入れたんだい?」
「今日の朝だよ。試験の為に色々と準備してる時に必要かもなと思ってね。少しだけ爺ちゃんに稽古してもらったから【空歩】の使い方も大分慣れたよ」
そう言うと「流石に、今日手に入れたスキルの対策は出来なかったな」と笑って言った。「何が対策出来ない」だよ。完璧に俺の剣の攻撃を受け止めていたじゃないか、俺はそう考え、話はおしまいという合図と一緒に強化魔法で物理攻撃力を上げ、剣を投げ捨て父さんに殴りかかった。
「ッ! 流石に1万オーバーの馬鹿力はいたいね。ヒリヒリするよ」
「ヒリヒリ程度かよ。まあ、でも俺の攻撃が全く効いてないわけじゃないんだ」
「そりゃそうだよ。僕は、普通の一般的な人間だからね。痛い物は痛いさ」
そう言って、父さんは無手の俺に対し剣を振りかぶった。しかし、俺はその攻撃に対し土魔法で壁を作り受け止め、そのまま壊れた壁を父さんの方に向かって殴った。
「ペッ、ペッ! 何するんだよ。クリフ、土が口の中に入ったじゃないか」
「仕方ない」
文句を言ってきた父さんに対し、そう返した俺は次の攻撃の為に距離を取ろうかと一瞬考えたが取る動作をした瞬間、父さんが襲ってくるイメージがわき、距離を取るんじゃなく父さんに接近する方を選んだ。この時、父さんが土を吐いている間に剣を風魔法で俺の手元に送っておいた。