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第36話


 多分、アイリさんは俺に対し鑑定系のスキルを使ったのだろう。しかし、爺ちゃんの鑑定眼によりレベルを上げていた【偽装】のおかげで、スキルを弾くことが出来た様だ。


「あらら、クリフ君、偽装持ちだったのか~」


「なに? アイリったら、クリフに鑑定でも使ったの?」


「ええ、ちょっと気になってね。でも、そうかリサラとクリムさんの子供だし、リグル様だったら孫のクリフ君に【偽装】のスキル書くらい渡すか~」


 アイリさんは、そう言いながら俺の頭を撫でた。


「クリフは、特にお父さんが気に入ってるから、もしかしたらそう言った対策のために色々としてるのかもね。私が知らない所で、よくクリフと一緒に居たりするから」


「リグル様がクリフ君を育ててるって、それ、クリフ君の将来が心配になるわね。もしかしたら、リグル様みたく戦闘狂に仕上がったりして……」


「ッ! だ、大丈夫よ。クリフは、大人しい子だし、それにこの間のクールベルト領の砦で戦闘があった時、倒れた兵士さんに回復魔法を使ってたらしいし……」


「リサラ、それ前提としておかしいわよ。まず、普通の子供は戦場になんかに行かないでしょう」


 アイリさんの言葉に、おろおろとしだした母さんは、俺をギュッと抱き締めて来た。そして、小声で「クリフは、お父さんみたくならないもん……」と呟いていた。


「あ~、ごめんってば、リサラ。ほらっ、落ち着いて!」


 アイリさんは、混乱しだした母さんにバッグからクッキーを取り出して母さんの口元へとやった。すると、母さんは一瞬にしてそのクッキーをアイリさんの手から取ると、ちょびちょびと食べ始めた。


「ふぅ~、良かった。リサラを落ち着かせるには、この手が一番ね」


「うふふ~、アイリの手作りクッキーは世界一美味しいわ~」


 アイリさんのクッキーを食べながら、笑顔でそう言った母さんに対しアイリさんは、俺に向かって「いま、この状況でどっちが大人か子供か分からないわ」と言われ、俺は苦笑した。

 それから、クッキーをおかわりと言ってアイリさんにねだった母さんに対し、アイリさんは皿を棚から取り出し、クッキーを盛り付けてくれた。

 「クリフ君も良かったら、食べて」と言われたので、1つ取って食べるとほんのり、はちみつの味がしてサクサクとした食感があり、凄く美味しかった。


「気にいってくれたようで、良かったわ」


「はい、凄くおいしいです。ありがとうございます」


「いいのよ。ほら、喋ってるとリサラに全部食べられるから、私の事はいいからドンドン食べて」


 とアイリさんが言ってる間も母さんはパクパクと、クッキーを食べていた。俺も負けじと食べるが、流石は母さん、片手で俺が両手で取れる数を取り、もう片方でパクパクと食べている。俺は、これでは俺の分が無くなると思い。後で、食べられるようにアイテムボックスの中にポンポン入れて行った。


「「……」」


「……あ」


 突然、母さんの手が止まり、目の前からも視線があるなと感じた俺はクッキーから目を離すと、母さんとアイリさんが俺の方を驚いたように見ていた。


「ク、クリフ君。【アイテムボックス】が使えるの?」


「ク、クリフ。いつの間に?!」


「え、えっと……お爺ちゃんに「内緒じゃよ」って言われてたんだけど、3歳の誕生日にお爺ちゃんから【アイテムボックス】のスキル書を貰ったの」


「う、嘘でしょ。私が、脅迫してやっと手に入れた【アイテムボックス】を……」


 俺の言葉に、母さんが驚愕していた。すまん、爺ちゃん。と心の中で謝り、スキル書を貰うために爺ちゃんを脅迫したと言う母さんが少し怖いと思った。


「リグル様、アイテムボックスのスキル書を渡すくらい、クリフ君の事を好きなのね。それとも、孫だからかしら?」


「確かに、お父さん、クリフだけじゃなくてアイリスたちにも甘い気がするのよね。やっぱり、孫だからかしら?」


「そうね。リグル様からしたら、クリフ君が初孫でしょ? どこの種族でも初孫は、凄く嬉しい筈よ」


 アイリさんと母さんは、そんな話をしていたので、俺は話がそれたと思い。残っているクッキーをアイテムボックスの中に入れた。アイリさんと話をしていた母さんは、気が付くと無くなっていたクッキーの入っていた皿を見て、悲しい顔をしてクッキーが無くなった皿を見つめていた。


「……ごめんなさい、お母さん。はい、お母さんの分」


 そう言って、俺はアイテムボックスの中に入れたクッキーの半分を皿に盛り付けなおした。母さんは、パァっと明るい笑顔になるとクッキーをまた食べ始めた。


「息子からクッキーを貰う母って……」


「お母さんは、甘い物が好きなんですか?」


「そうね。甘い物、特にはちみつ系がすごく好きなのよ。もし、クリフ君が料理出来る歳に成ったら、私がこのクッキーの作り方を教えてあげるから、リサラに食べさせてあげてね」


「はい、その時はよろしくお願いします」


 クッキーに夢中になり、俺達の話を聞いていない母さんの横で俺とアイリさんはそんな約束をした。

 母さんは、クッキーを全部残さず食べきると「ふぅ~、久しぶりで沢山食べちゃったわ~」と言って自分のアイテムボックスからお茶を取り出して一息ついていた。


「そう言えば、リサラ。何で今日、ここに来たの?」


「えっ? ただ、アイリに会いに来ただけだよ? 暫く会ってなかったし、クッキーも食べたかったから」


 そう言った母さんに対し、アイリさんは呆れたように溜息をついた。その後、暫くアイリさんと話をし、家を出たのが昼ちょっと過ぎだった筈なのだが外は夕暮れ時になってきていた。


「それじゃ、そろそろ帰るわね」


「ええ、また来てね。クリフ君も、いつかお店に買い物に来てね」


「はい、その時は何か買いにきます」


 その後、アイリさんに別れの言葉を言い、店の前で止めていた馬車の、御者の人に「おまたせ」と母さんが言って乗り、俺も馬車に乗ると動き出し家に帰って行った。

 帰宅すると、姉さん達が出迎えてくれて「ついていきたかった~」と駄々を捏ねたので、アイリさんのクッキーを渡すとピタっと止まり、クッキーを受け取りちょびちょびと食べ始めた。


(姉さん達にも有効だな)


 その光景を見て、そう思った俺は今後、何かのタイミングで姉さん達から逃れる為にこれは秘策だなと考え、その日はぐっすりと眠りにつけた。


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