第12話
俺と爺ちゃんは2日間馬車に揺られながら王都に着いた。王都の門は少し列が出来ていて俺と爺ちゃんはその列に並んだ。爺ちゃんは昔使っていた冒険者カードを俺は身分証を出して中に入った。
「ねえ、爺ちゃん何処に向かってるの?」
「儂の知り合いの所じゃ、奴じゃったらクリムの事も知っておると思うからのう」
「爺ちゃん、王都に知り合い居たんだ。てっきり、爺ちゃん里から出ないエルフの人だと思ってたよ」
「まあ、リサラ達にはそう言って居るが若い頃は結構旅しておったんじゃよ。そん時にここに居る知り合いと出会ったんじゃ」
爺ちゃんは王都を走っている馬車に乗り込み目的の場所の近くまで馬車で移動する事になった。馬車の中から王都の景色を見ると、前に母さんから聞かされていたような色んな店があり、獣人や竜人等の種族が、王都内に沢山いた。
俺は、初めて見る獣人や竜人に興奮しながら馬車に乗って居ると、爺ちゃんから「降りるぞ、クリフ」と言われて、俺は馬車を動かしてくれた人に「ありがと~」と言って降りた。
「さてと、多分奴はここに居ると思うが……お~い、誰かおるか~」
爺ちゃんと馬車から下りて数分歩いた所の民家の扉を「コンッコンッ」と叩き爺ちゃんは中に居る人を呼んだ。
「はいはい、居ますよ~、ってリグルッ?!」
「久しいの、レグルスよ。ちょっと、今良いか?」
「ああ! 良いとも、久しぶりに友が遊びに来たんだ追い返すわけはないだろう。して、そちらの坊やはリグルの子か?」
「違うぞ、この子は儂の娘リサラとクリムの息子だ。そして、この子の父親の件で今日は来たんじゃ」
「……そうか、やはりその事でか」
レグルスと爺ちゃんが呼んだ。見た感じ40代後半か50代前半の男性は俺と爺ちゃんを中に入れさせリビングのソファに俺と爺ちゃんを座らせた。
「レグルス、単刀直入に聞こう。クリムに何があった?」
「……儂も本当に最初は気が付かなかった。だが、ここに隠居する前に高名な魔女に儂は「魅了されておるぞ」と言われ直ぐに儂にかかっていた魅了を解いたんだ」
「魅了か厄介な物にかかっておったのう。しかし、主はここ数年王都から出ていないだろう? 魅了は魔人か魔物位しか使えないじゃろう?」
「ああ、儂も魔女に聞かされるまで知らなかったよ。これは、魔人や魔物の仕業ではなく人間、それも王都内の人間の仕業だった。そして、儂は極秘にこの事を調べるとある人物が魅了を使ってるのを見つけたんじゃ」
「レグルスよ。それが、クリムとどう関係があるのじゃ?」
「リグル、怒らないで聞いてくれよ。……この魅了を使っていたのはクリムの妻に送った伯爵家の三女が使っていたのだ」
俺と爺ちゃんの前に座っている男性からその事を告げられた爺ちゃんは一気に周りが震えるほどの魔力を出した。爺ちゃんは感情が高ぶると鍛え上げた魔力を抑えきれず周りに放出すると婆ちゃんから聞かされていたが、隣に座っている俺はその魔力に当てられて冷や汗が出ていた。
「ッ! すまん、クリフ」
「いや、いいよ。爺ちゃん、俺も今の話を聞いてちょっと大体の事の顛末が理解できたから」
「……本当にすまなかったリグル、儂があの伯爵家から打診された時に既に魅了されていたみたいなのだ」
「レグルスよ。主が頭を下げてどうする。それでも、主はこの国の前国王じゃろう」
「いや、これは儂の仕出かしたことじゃ平和な世界になり身内なら安全だと思い何も対策を行っていなかったばっかりに友の娘、そしてその子まで悲しませる行為をしてしまった」
そう言って目の前の爺ちゃんの友達であり前国王のレグルスさんは頭を深く下げた。それを見た爺ちゃんは「止めるのじゃ、儂はそんな事をして貰うために来たわけじゃない」と言って頭を上げさせた。
(っと、ちょっと待て今サラッと流したけど、爺ちゃんは今この前の人の事、前国王って言わなかった?!)
「ねえ、爺ちゃん今さこの人の事前国王って言ってた?」
「ああ、すまんかった。クリフ、この男は昔儂と共に旅をしておった仲間の一人で今じゃ隠居生活を楽しんで居る。レグルス・ワンス・ショーランじゃ」
いやいや、爺ちゃんどんな凄い人と旅仲間だったんだよ。と俺はツッコミを入れそうになったが流石に前国王と分かりそんな無礼な態度は取れないと思いグッと我慢した。
「して、レグルスよ。この事は誰までが知っておる?」
「ああ、儂と儂の孫である第1王子のアーサー、そして伯爵家の三女の息子達が知っておる。後の者は、あの女の魅了にかかっておって話が出来なかった」
「成程のう、確かアーサー殿下は【全状態耐性】持ちじゃったらしいのう。それで、魅了が効かなかったのか、しかし伯爵家の三女の息子達と言う言い方、何故その様に言っておるのだ?」
「……あの女が腹に抱えていたのはクリムの息子達ではなく別の男の子だった。そして、それをクリムの子だと偽り奴は公的に正妻になると進言した。しかし、その息子達は母親の魅了は効かず自分達がクリムの子では無いと何処かで気づいたらしく今はアーサーに付いている」
「……なあ、レグルス。その三女殺しても良いか?」
爺ちゃんは、感情が高ぶってはいないが相当頭に来ているのか血管が切れて額から血が出ていた。
「お、落ち着くんだ。リグル!」
「レグルス。儂でも許せるものと許せないものがある。流石に大事な娘の旦那のクリムを魅了して自分の者にし家族を崩壊させたその女、何故生かさなければいけない?」
爺ちゃんがそう落ち着きながらレグルス前国王に言うと部屋の扉からノック音がし扉が開いた。部屋の中に入って来たのは目の前のレグルス前国王と同じ髪色、銀髪を生やした少年だった。
「お爺様」
「アーサー、何故ここに来た?」
「お爺様、私も流石にこの件に関しましてはリグル様のご意見に賛成です。あのような危険な魔法を使う女を生かすのは王都にとっても危険な存在になります」
「話が分かるのう。ほら、レグルスよ孫の言う事は聞くんじゃ」
「しかし、アーサーよ。あの娘の父である伯爵は、この王都にとって色々ととつくしてくれた者で、その娘を……」
レグルス前国王が言い終わる前に横に座っていた爺ちゃんが立ち上がった。
「なあ、レグルスよ。その尽くしてくれた伯爵の事は大事だろうと思うがな儂の事はどうなるんじゃ? まさか儂らの敵になるのかレグルスよ?」
「そんな事は……」
「レグルス、お主少しばかり平和ボケしすぎではないかのう? 確かにこの王都の発展を手伝った者が伯爵の者なら確かにお主が大事に思うが、この王都を魔王の手先の襲撃から救ったのは誰か忘れたのか?」
「……分かった。リグル、しかし少しの間だけ待ってくれ伯爵家の者達に伝える時間を」
「その位なら良い、儂かて家族との別れの時ぐらい与えよう」
爺ちゃんとの話し合いが終わったレグルス前国王は隣の部屋に居た執事らしき人に伯爵家の当主を呼ぶように伝えていた。
「……爺ちゃん、あの人相当怖がっていたけど爺ちゃん何やってたの昔」
「ただ、魔物の軍勢を儂の魔法で塵にしてやった位じゃ、あの時はレグルスから王都を救ってくれと頼まれたからのう」
爺ちゃんはそう言いながら淹れて貰っていたお茶を飲んで一息ついていた。