剣、或いは魔法の世界
鋼の巨兵が闊歩する街に
砂塗れの本を抱えて
瞳を輝かせた少年がひとり佇んでいた
海を渡ると、すごい世界があるんだ
僕の見たことのない
こことは違う世界が
砲弾の応酬が終わることは無く
戦車の履帯は少年の足跡を消し去った
その世界には魔法がある
そうに違いない
ここにはない魔法が
耳障りな爆音
砲身に石を投げ入れろ
崩れた病棟
瓦礫の下
灰色の記憶
剥き出しの鉄筋
降らない雨
降り注ぐ鉄塊
瓦礫の上に坐して少年は本を開き
数十年以上先の未来に憧れた
誰もが剣を振るい
権を笠に着るような
この世界とは違う場所
だってそうだろう
蛇口から水が出るなんて
そんなの魔法に違いないよ