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95 学園を離れる王太子と、その護衛【異世界恋愛】 ファーレン サルトル

ファーレンは学園へ行くのをやめて、神殿の小さな学びの場へ顔を出すことを家族に告げた。王である父も、きさきの母も、ナイフが自分の席に突き立った事件を憂慮ゆうりょしていたため、快くそれを了承した。


今日は学園に行く、最後の日となった。先生や生徒たちは紛糾したが、それもファーレンの意思が固いことを知ると次第に静まって行った。


門をくぐって外へ出る。ファーレンは清々(せいせい)とした気分に満ちた。


「逃げるのか」


数少ない、というよりもほとんどたったひとりの友と呼べる、サルトルが追いかけてきて、そう尋ねた。ファーレンは、ほかの学生や先生には決して見せないような、苦い表情をサルトルに見せた。


「違う。新しい学び場へ行くだけだ。こんな、いじめが起きてもろくな対応の出来ない学園にはほとほとあきれ果てた。俺は俺のことを守るために、神殿へ行く」

「ははあ。ステラに会う口実だな?」

「ば、バカを言うな」

「図星だろ」


サルトルはおかしそうに笑い声をあげる。彼の家は、身分は高くないものの、王家の護衛を代々勤めてきた忠節の厚い一族だ。ナイフの事件が起こる前、ファーレンはサルトルに連れられて、王都の楽しいところにもときどき連れて行ってもらった。サルトルにも、ファーレンは決して殿下とは呼ばせない。むしろ呼び捨てで忌憚きたんない意見を出すように命じており、サルトルはそのようにふるまっている。


「お前は、今だにステラに入れ込んでるもんな」

「……まあ、それもあるのは認めるさ。子どものころ、生涯愛すると誓った相手を忘れられるか。主神サトゥルヌスなど大嫌いだ、今でもな」

「神さま嫌いのお前が、神殿の学びの場で勉強ねえ。面白い。ならばオレも行く」


揺るがない決意を込めた言葉に、ファーレンは驚いた。


「サルトル!? 学園の箔が欲しいと、言っていたお前がか?」

「お前の護衛は誰がやるんだよ。ナイフの事件は、ほんとうにオレの失態だと思っている……こんなオレがついていっても足しにはならないかもしれないが」

「学園などという、大規模な過密人数の場所で、お前ひとりが四六時中、俺を守るのは難しかったと理解している。仕方がなかったことだ」

「挽回のチャンスをくれ、ファーレン」

「そういうことなら、来い、サルトル」

「……早い卒業になってしまったなあ、オレら」

「まあな。しかし、俺は案外、これからを楽しみにしているぞ?」


学園を離れ、新しく始まる神殿の学びの場に通うことを思うと、ファーレンは子どものように心がワクワクとしてくるのを抑えられなかった。

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