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94 王太子なんて、やめてやる 【異世界恋愛】 ファーレン ステラ

トアル国の王太子、ファーレンは王宮の庭園に聖女ステラを呼び出した。いつものことである。とはいえ、最近王太子という国を継ぐ立場がはっきりしてからというもの、ファーレンの座席にナイフが突き立つという王太子に対するいたずらとも思えぬ暗殺未遂のようないじめの起こった学園に、素知らぬ顔をして行けという周囲の圧に耐えて通い、ろくに外へも遊びに行くことが出来なくなったファーレンのストレス解消といえば、緑豊かな庭園でこのステラにひざまくらをしてもらい、ふだん言えぬグチをぶちまけることしかない。


聖女ステラはまだファーレンが子どものころ、初恋をした幼なじみだ。良い家の出であり、まだ王太子とならぬ身ではあっても、のちの妃に最も近いとも噂されていたし、ファーレンも王の一族もそれを認めていた。


しかし、ステラを選んだのは国の厚い信仰を集めている主神、サトゥルヌスだった。


サトゥルヌスに神託でもって聖女に選ばれた娘は、神殿に入る。それがこの国のしきたりだ。生涯処女のまま、心身をサトゥルヌスに捧げることとなる。


ファーレンは子どもながらに、神殿にステラが召されたときは、神など死んでしまえと思った。そうして、国の神を否定し激しくステラを要求するファーレンに、王たちと神殿の者たちとで取り決めをし、聖女になったとしても、相談役として望めばいつでも来てくれる間柄は維持できることになったのだ。


よく育った庭園の木々の木漏れ日が、植物のつるをあしらった真っ白なベンチに横になり、ステラの膝まくらをしてもらうファーレンに降る。


「王太子なんて! 王太子なんて! こんなしがらみだの因習だのばっかりで、権力の甘い汁を欲しがる頭のおかしい連中と、権力を妬むやつらの俺を暗殺しようとする集団と、もう付き合ってられるか! 王制などなくなってしまえばいいんだ」

「……よく耐えて、ふつうの顔をして学園に通えていますね、ファーレンさま」


優しくファーレンの背をステラの手が撫でる。ステラにファーレンは、決して殿下、とは呼ばせない。呼び捨てで良いと言っているのだが、ステラのほうが恐れ多いと言うので仕方がなく「さま」づけは許した。


「俺は平民になりたい、ステラ。大きな犯罪でもしてしまえば、いっそのこと自由になれるだろうか」

「犯罪は、されたほうが悲しいですし迷惑です」


きっぱりと言うステラ。ファーレンに対して、何もてらうことのないこの態度を、彼は心底大切にしている。


「分かっている。しかし、この王太子の椅子にナイフが立ったという事件がありながら、ふつうに今までどおり通えと言う学園も頭がおかしいよな? 家庭教師に切り替えて、王宮から出ずに学べば十分だろう」

「子女はきちんと学園に行く、ということが世に『普通』と思わせるための常識ですものね」

「親は、学園がどんなところなのか、ろくに知らずにネームバリューだけで通わせてるアホも多いしな」

「本当に嫌なら……王太子さま。学園は行かずとも良いと、わたくしは思っていますよ」

「本当か、ステラ!?」

「はい。でも王宮だけに家庭教師を呼んで外に出ないのは、良くありません。その代わりに、わたしたちの神殿に通いませんか? 恵まれない子どもたちに開かれた、勉強の場があるのです」

「神殿の学園、ということか」

「学園、とまで大きな規模ではないですし、通う子たちも7、8人の少人数でやっていますけれど。わけあって貴族から身を落とした子どもや、平民の子どもたちが通ってくるのです」

「おもしろいな!」


ステラの言葉を聞いて、ファーレンはグチをまき散らしていた不満顔から、興味深そうな表情に変わった。


「詳しく聞かせてくれ、ステラ。魑魅魍魎のいるなかで、ボディーガードを従えての通学になる今の学園より、よほど面白そうだ」

「はい。では、そこに通う子どもたちのことを、すこしお話しましょうか」


ステラがにっこりと笑う。


聖女となり、自らの妻に迎えることは出来なくなったとしても、ともに在ってくれるこのステラを、ファーレンは今だ愛しいと、思っている。


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