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90 稲わら細工の師匠と弟子2 【ヒューマンドラマ】 土野源五郎 祐介

親戚の子の祐介ゆうすけが、口をへの字にして源五郎げんごろうのところへやって来た。

祐介は源五郎の稲わら細工に惚れこんで、弟子になっている。

手先がわりと器用なことも分かって来て、熱心に技を伝えている源五郎の愛弟子まなでしだ。


「どうした、いつも楽しそうにやって来るのに」


源五郎が稲わら細工の手を止めて聞く。


「クラスのやつに、稲わら細工なんて古臭いこと、いつまでやってんだって言われた」

「ははあ。それでケンカしたのか」

「ううん。言われっぱなし」


祐介は視線を落とす。


「……だって、ケンカなんて馬鹿なやつのやることでしょ、源じぃ」

「俺の子どものころは、ケンカなんて毎日のようだったけどなあ」

「そうなんだ」

「相手の髪をひっつかんだり、噛みついたり、殴ったりな」

「わー、ワイルドだね、源じぃ」

「譲れんことがあるから、ケンカにもなるんだ」

「……うん。それでお金がどれだけ稼げるようになるんだ、勉強していい大学へ行って、大企業に就職したほうがいいに決まってるって言われた」

「なるほどなあ。その、言うやつもきっと親からずっとそんなことを言われてるんだろうな」


源五郎はそっと縁側に座る祐介のとなりへやって来た。


「でも! これからの時代はさ、源じぃ。大企業だって、つぶれちゃったり、希望する仕事がなくて、ほかの会社に違う仕事をやりに行ったりする時代でしょ? だったら、ぼくは地元に残って稲わら細工を続けたい」


祐介の小さなその決意に、源五郎は涙がこぼれそうだ。


「稲わら細工はな、祐介。もともとは稲作の合間の手仕事だ。ということはだ、稲が不作でも収入を得られる方法だったってことだな」

「そっかあ。じゃあ、これからの時代は、身につけといて損はないね!」


少年の顔に笑みが戻る。


「ああ。これからの時代は稲わら細工も、もう一度波が来るかもしれんぞ」


祐介が発信しているSNSのおかげで、すこしずつ源五郎の稲わら細工には買い手が増えている。その思いは、嘘では無かった。


ぐし、と祐介は涙をぬぐい、作りかけの自分の稲わら細工を手に取った。


「じゃあ、今日もやるよ、源じぃ。ありがと」

「おう、俺を抜いてとびきりの稲わら細工を作れるようになれ」

「それはまだまだ難しそうだけど……手を動かしているのは好きだから」

「その調子だ、祐介。何かに挑戦しているやつはな、そこからもっといろんなことにひらけていくもんだ。じかに手を動かすのは、口で何をしゃべるよりもいい」

「……うん」


祐介は、そうして黙々と稲わら細工の編み込みを始めた。

源五郎は愛おしそうに、ずっとその手を見つめていた。

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