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9 真夏の歌【現代恋愛】 僕 美優
本格的な夏が始まった。エアコンの効いた、町の図書館で勉強しようと考えた僕はうだるような暑さの下で足を速めた。
そうして図書館の前の公園を横切ろうとしたとき。
音楽が聞こえてきた。
エレキじゃない。ふつうのギターの音だ。
汗を払いながらそっちを向くと、長い黒髪を頭のうしろでひとつに束ねた少女がいた。
歌が聞こえてくる。
真夏の幻のように
君とボクは出会った
ぎらつく太陽も
気にならなかった
……だいたい、そんな感じ。歌なんてわざわざこんな時期に、熱中症になるぞ?
僕は歌う少女がちょっと心配になった。
「お兄さん、聞いてくれてありがとー!」
歌が途切れ、 少女がはにかんだ。
僕は会釈して、目的を思い出した。図書館!
でも、少女が気になった。帰るときにもいるだろうか?
「暑さに負けないで、頑張ってね」
ふとそんな言葉が口を突いた。
「ありがとー。行きたいのは図書館でしょ。ちょっとだけでも聞いてくれてさんきゅーね」
少女の笑顔を、僕は可愛いと思った。
それが、彼女と僕の物語の始まり。