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87 民泊冒険者ギルド ~避難者ナミ~ 【ローファンタジー】

ナミは働いていたところから、いくばくかの手切れ金を渡されて仕事を失った。

親との関係は最悪だ。戻るつもりは無かった。かといって、都会のワンルームマンションでは家賃もその他の生活費もこのままでは底をつく。

新しい仕事を、同じ街のなかで同じ職種を探してみたが、またクビになり、働いた分だけの給料も出ない場合があることを知った今では、マジメに働こうという意欲も薄い。

どこか、見知らぬところへ行こうか。

そうして、ネットサーフィンをしているうちに、シェアハウスやゲストハウスなどの情報つながりで出てきたのがこの「冒険者ギルド 〇〇村」だった。

月額25000円を払えば、家賃、光熱費、水道代も込み。Wifiの無料使用が可能だという。


「一度、何もかも捨ててみて、冒険者になりませんか?」


そんなフレーズがホームページに書いてあった。


幸い、冒険者ギルドの空き室はまだある。心細いとはいえ、街で暮らす分の三分の一の費用でもって一か月が暮らせそうだ。


ナミは思い切ってどうせなら試しにとギルドの利用を決めて、街のワンルームマンションを引き払い、家財道具も処分したり、リサイクル業者にすべて売って身ひとつで「冒険者」になった。


どうにもならない今を、どうにかなるさ、と自分に言い聞かせて。


やって来たのは田舎の一軒家だった。何人かの村人が住むだけの、限界集落にあるその一軒家は、昔の長者が建てたらしく、立派だった。


「いらっしゃい! 話は伺ってますよ。どうぞ『冒険者ギルド 〇〇村』の暮らしを楽しんでくださいね」


ギルドの受付は、ナミと同い年くらいの20代半ばに見える女性だった。


楽しむ! 働いていたところの業績が悪くなり、雰囲気は最悪だった仕事場では得られなかった感情だ。


「……なにがあるんですか」

「おいしいお米と、野菜とのお料理は、一日10Gでご提供します」

「10G?」

「ああ、うちの地域の地域通貨ですよ。ギルドにはいろいろなお仕事を用意していますので、気が向いたものをやって頂ければ……最初は100G、お渡しします」


100G! 最悪の場合、一日一食と考えれば、10日分は食べられる。


「どんなお仕事があるんです」

「そうですね……ちょうど今来ているのは、ふねさんのおうちで情報収集、です」

「情報収集?」

「まあ、傾聴ですよ。最近はどうですかー、ってお邪魔して、元気かどうか確認してください。足は元気ですか、耳は? とか、肩たたきしましょうか、とか、困ってることはないですか、とか」

「それで100G。はい、やります!」

「元気ですね! いいことです」

「仕事場では、元気が取り柄だったので」


なにもせずにワンルームマンションでお金が尽きてホームレスになるよりも、良い決断をしたとナミは思った。


「その調子ですよ。頑張れる力があるなら、ぜひお仕事をお願いします。でも……体も心も疲れ果ててしまっているなら、ごはんくらいツケにして、この近くの温泉や自然をまずは楽しんで頂いても構いませんからね」

「あ……ありがとうございます」


申し出に、涙が出る。既定の給料すら払わなかった前の仕事場には腹が立つが、ナミはここで頑張ってみよう、という意思を確かに感じていた。

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