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83 屋上職人 ~結び~ 【SF】

屋上職人がさまざまな工夫をこらしたその場所は、死にたい人間にとってのセーフティネットとして知られるようになった。


そこに行けば、死にたい理由を聞いてくれるひとがいる。そして、必要な援助方法を知らせてくれる。


借金地獄に陥ったひとには、超有名画家やアーティストが、億単位で売れる作品をそのひとのために使うことで。


仕事をしすぎて疲れたひとには、とりあえず精神的負担も肉体的な負担も少ない「事故物件」でないところの屋上職人をしながらの道がある、と激務続きの職場から逃げられる手段を知らせることで。


仕事を無くして家賃や食費が危ういひとびとには、ひとまず金が手に入る手段として使うことで。


これが一番多いのだが、親子関係や学校、職場の知人関係などで、手狭な人間関係が嫌になりすぎて死にたくなってやって来たひとには、別の街での屋上職人をやってみないか、と案内をすることで。


もちろん、屋上で行う青空展覧会で絵やアートクラフト関係をやってもいいし、広い屋上ではスケートボード場やBMX(自転車)の練習場など、各種の運動場になっている場合もあるので、好きなスポーツを一日じゅう眺めるだけでも良く、または自分も参加できる屋上職人を選んでもいい。


国の指針で孤独に対する部署を作って、自殺対策に乗り出した国どうしで他の国の好きな屋上へ行き、語学を無料で勉強しながら仕事が出来るようになるまでフォローする屋上職人交換プログラムも出来た。


思わぬ良い結果が出たのは、そうして屋上職人という仕事がまずある、という状態をひとびとが当たり前のように知る時代が来ると、電車のホームからの飛び降りや線路への飛び込み、やけを起こし自宅で思い余っての自殺や他殺、ときどき平和な世の中で起こる多数に向けた暴発的な他殺願望者が激減した。


クソみたいな人生で詰んだ終了、ひとを殺して俺も死ぬとまで思っていた人間が、得られる金銭の方法としても、生きていくための支援情報を得る方法としても転機を迎えられるきっかけ。


屋上職人はそのように機能したのである。


「死にたくなったら、屋上がある」


その言葉が、落ちて死ぬためのものから、空を眺めて心身を休め、新たなことに対する気力を得るためのものに、21世紀末には変わって行ったのである。

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