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80 屋上職人【SF】

世の中に、絶望してどこかから飛び降りる悲しいひとびとは無くならない。


そこで21世紀のなかごろに新しくとある国が始め、高層建築のあるところならばどこでもその取り組みが全世界的に広がっていったのは、屋上職人という仕事でひとを雇うことだった。


仕組みは単純だ。登れないフェンスの強化や屋上につながる通路の封鎖ができない、または屋上へと昇る権利をひとから奪いたくないなどの理由で、ひとが飛び降りる可能性のある屋上を開け放つビルなどの建物で、屋上職人を雇う。


彼らは、まず屋上にいつもいる。それが仕事だ。


屋上にいるなら、本を読んでいてもいい。ぼうっと、広がる空を眺めていてもいい。住人の迷惑にならない程度のデシベルでなら、ラジカセでラジオ放送や音楽を聞いていてもいい。


スマホやヘッドフォンでの音楽鑑賞、携帯で持ち込むゲームなどは禁止だ。ようは、それにかまけて目的である、飛び降りそうなひとびとへの即時フォローが出来なくなってはいけないという判断基準だ。



何度もひとが飛び降りたことのある「事故物件」の危険な屋上では、屋上職人のなかでも傾聴ができる者を配置する。


家族不和の悩み、人間関係の悩み、仕事がうまくいかない悩み。


ありとあらゆる苦しみを、屋上職人は傾聴する。


その効果は上がっていった。


まずは屋上に衝動的に絶望したひとが来たとき、誰かがいる、というだけでも飛び降りの抑止力になった。


そしてこの屋上職人が仕事として始まると、とりあえず感染症や、それで経済難となり、そのあおりを受けて職を失ったひとびとのセーフティーネットとして機能した。


それは、職を失ったひとたちの直接的なすぐに出来る仕事としてもだし、さまざまな悩みを抱え飛び降りようとするひとびとの支えとしても、だ。


感染症が奪ったのは、主に飲食店や旅行業という、ひとへのホスピタリティ能力を比較的高く持つ業種のひとびとだ。


彼らは、自分自身も職を失い、高層建築から飛び降りる気持ちが分からなくもない立場を経験したことがあるため、良い屋上職人となった。


そして、21世紀を終えるころには、高層建築から飛び降りるひとびとは激減した。


学校でも、職場でも。

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