8 美容室の新井さん【ヒューマンドラマ】 陽菜子
美容室に予約を取った。いつも髪をきれいにしてくれる、なじみ深い新井さんを指名する。新井さんはわたしよりもすこし年上で、髪を切るのも、そして話を聞くのもとってもうまい。
今日は、特に新井さんに聞いてもらいたい話があった。
「陽菜子さん、こんにちは」
あたたかい笑顔で新井さんが迎えてくれる。
洗面台の前の椅子に座ると、ガコガコと椅子を調整してくれる。ふわりとタオルが目の上に来た。
「新井さん、聞いてくださいよー」
わたしは努めて普通を装った。
新井さんがわたしの髪を洗った後、ついでに頭皮マッサージをしてくれている。
「どうしたんですか」
落ち着いた声に、わたしはちょっと泣きそうになった。
「彼氏と別れたんです。ヤツの浮気が許せなくて」
「あらあら」
「だから……ひぐっ。今日はバッサリお願いします」
わたしの言葉に、すこしマッサージする手が止まった。
「大丈夫。陽菜子さんなら、新しいひとがきっと見つかりますよ」
「……だといいんですけど」
マッサージの手が再び動き出す。
「大丈夫、大丈夫」
新井さんの優しい言葉に、わたしは泣いてしまった。タオルが目に当たっていて良かったと思った。
「じゃあ、綺麗なショートカットにしましょうね」
「はい……お願いします」
髪をすべて委ねられる。気持ちさえも。わたしはそんな新井さんが大好きだ。