77 稲わら細工の師匠と弟子 【ヒューマンドラマ】 土野源五郎 祐介
土野源五郎は、過疎化が進んだ寒村にただひとり残る稲わら職人である。
米作りは近隣の村人たちが源五郎の田んぼを借りて、共同で無農薬の栽培を行っているため、完全な孤独というわけではない。
というのも、最近になって、源五郎のもとには可愛い弟子がやって来たからだ。
「源じぃ! かご、できたよ」
中学1年生の祐介だ。親戚の子どもで、源五郎の稲わら細工を気に入り、近隣の村から片道10キロの道のりを自転車に乗ってやって来る。
腕は未熟だが稲わら細工に対する想いはとても熱く、日々源五郎の指導を受けてメキメキと成長中だ。
「……ここ」
源五郎は、一見綺麗に見える稲わら細工のかごの、一点を指した。
よく見ると、そこだけ確かに稲わらの網目が不細工だ。
「わー、よく見つけられるね、源じい」
「こんなもん、慣れだ」
「そっかぁ。ぼく、もうちょっと頑張るね」
祐介はパシャリとスマホのカメラで、自分が作った稲わら細工のかごを写真に収めた。
「……ひとさまに見せるものなら、もっといいものを撮れ」
源五郎はちょっと恥ずかしそうだ。
「ええ! でも、インスタグラムとかSNSでみんなに見せるなら、上手く出来る前のイマイチなぼくのやつと、お師匠さんの源じぃのピカピカのやつを比べた方が、源じぃがすごいってことがよく分かるもん」
「……そんなものか」
「うん。ぼく、稲わら細工がもっと出来る職人になりたいんだ。だから今の半人前なのも、十分ひとに見せる価値はあるんだよ、源じぃ」
インスタグラム。SNS。デジタルネイティブの世代の言うことは、80を超えた源五郎には難解だ。
しかし、半人前なところもちゃんと見せるという祐介の言葉は、確かに上手くなればもう無くなるものなのだから、ちゃんと撮っておくという行為はとても神聖であるような気もした。
「……なら、失敗したところもちゃんと撮っておけ」
「うん!」
祐介は、源五郎に指摘された稲わら細工の失敗したところがはっきりと分かるように写真を撮る。
源五郎はそれを見て、その不細工なかごも、何かしらとても大切なものへと変わっていくような気がした。




