76 どんよりぐもとアマガエル 【童話】
どんよりぐもは、くものなかでもとびきりきらわれものでした。
にゅうどうぐものように、わかりやすいおこりかたをしませんし、ひつじぐもやうろこぐものように、あおぞらをうつくしくいろどったりもしません。
ひこうきぐものようにいっちょくせんをえがいてまっすぐすすむくもをうらやんでいたりもしました。
どんよりぐもがちかづくと、ひともどうぶつもみんなかおをしかめてたてものやもりのなかへはいってしまいます。
「ああ、おれのようないつもうかないかおをするくもなど、すかれるはずもない」
どんよりぐもはそれをみていっそう、さびしさのなかにぽつぽつとじめんへなみだをおとすのでした。
どんよりぐもは、まちからいなかのたんぼのあたりへとかぜにふかれてうごいていきます。
「どんよりぐもさん、どんよりぐもさん」
たんぼのなかから、どんよりぐもをよぶちいさなこえがありました。
それは、ちいさなちいさなアマガエルたちでした。
「きらわれもののおれに、なんのようだ」
「ぼくらはどんよりぐもさんがすきですよ」
アマガエルはけろけろとわらいました。
「こんな、いつもくらいかおのおれがすきなのか」
どんよりぐもは、アマガエルたちがなにかほんとうはじぶんのことをばかにするのじゃないかとうたがいます。
「どんよりぐもさんが、ないてくれるおかげで、ぼくらはぼくらのかなしみをわけもってくれたとおもうんです。だからどんよりぐもさんに、ぼくらはせいいっぱいのカエルのうたをおくりものにするんです」
アマガエルは、たんぼのなかでけろけろとうたいだしました。
おくりもののカエルのうたがそらまでけろけろとみちてくるのをきいて、どんよりぐもはすこし、わらいました。
わらうとどんよりぐものすこしうすくなったところに、うつくしいなないろのにじがかかったのでした。