69 これからの仕事スタイルは 【ヒューマンドラマ】 フレデリック
ようやく、ニューヨークも店を再開するという。
新型コロナウイルスの猛威が、すこし減退し始めたこのタイミングで、フレデリックはとうとう日本への長期滞在を心に決めた。
数年前からフレデリックは日本のひなびた山村地域に、オーストラリア人のオーナーが始めた純日本家屋の小さな民宿へ行くことを年に数回はやっていた。
インターネットが普及して、日本であればそうしたひなびた山村地域でも光回線をつないだ地域が出てきているので、コロナの影響で知られ始めた「ワーケーション」というのをフレデリックは先駆けてやっていたのだ。
ワーケーション。
会社の所在する場所に縛られず、好きな旅行先で仕事をするスタイルだ。
コロナがまん延し、在宅でインターネットを使った仕事を自宅でするのなら、別に旅行先でも構わない。
フレデリックはひなびた日本の山村をとても気に入り、地元のお祭りにも参加するようになったし、田んぼや畑の春先の作業も手伝った。
山村ではすっかり馴染んだ外国人として快く受け入れられていて、ぽつぽつと英語を教えてほしいという若者たちも現れている。
そして、恋人だ。
山村の美しい女性と、フレデリックは恋に落ちた。遠距離恋愛だが、インターネットは物理的な距離を解消し、ふたりは互いの関係を温め続けてきた。
今は、ちょうど恋人や配偶者のためのビザがコロナの影響で日本政府から停止されてしまっているため、日本に行くことは出来ないが。
フレデリックはニューヨークの自宅を、整理し始めている。友人や同僚たちも、ニューヨークから去り、価格の安い郊外に住んで仕事をするようになった。
彼もその流れに乗り、日本への渡航が出来るようになったら、ニューヨークで得た仕事はできるだけそのままに、新しい住みかを山村に作る手配をしてある。
会社も、このご時勢のため副業として英会話を日本の若者に教えながら、今までの仕事を続けることを承諾していて、今後はひとまずニューヨークと日本の二拠点で暮らすことになるが、会社にそれほど実際の出社を求められなければ、友や同僚のように、ニューヨークから郊外へアメリカの住みかを変えることや、許されるのであれば仕事はインターネットですべて行い、日本だけに暮らすことも考えている。
「Oh、楽しみデース」
フレデリックは、つい日本語でこれからの期待を口にした。
コロナは混乱と恐怖を人類にもたらしたが、新しい場所を問わず、どこでも副業可能な人生を彼にもたらしたのだった。




