67 才能って何だろう 【ヒューマンドラマ】 美々花 里実
美々花と里実は中学二年生、同じクラスだ。家の方向が、町の公共施設である交流館を通るところまでは一緒なので、ふたりは寒い冬に温かな交流館の中で話をすることが多い。美々花は才色兼備のオールラウンドガールで、モデル並みに可愛い。里実は地味で、成績も赤点ギリギリのほう。アート方面にはすこし覚えがあるが、何故友だちがたくさん選べる立場だろうきらきらした美々花が仲良くしてくれるのか、とすこし不安になることもある。
「美々花ちゃんは、なんでこんな私と一緒で良いの? 楽しくなかったり、しない?」
「あー。また里実ちゃんの『自信ない』だね」
美々花が苦笑する。
「成績上位、スポーツ上位を目指す子たちの集まりってさ、案外気が抜けないわけ。相手の落ち度を期待してたりするほどじゃないけど……努力してその地位を保ってるひとほどライバル意識が強い子も多くてね。わたしは、そういうの、もうダメだなって思ってたんだ」
「そうなんだ」
「そういうときに、たまたま里実ちゃんの絵を学校の展示で見かけてさ。あっ、こんなにほっと落ち着ける絵、初めてだなって。こんな絵を描く子と、友だちになれたらきっと素敵なことが起きる気がした。それは間違ってなかったよ」
「……ありがと」
「ううん! こちらこそありがと、だよ。絵と同じ、一緒にいるとほっとできる子だって分かって良かった」
「そっか。あんまり、成績だと目立たないけど、絵は私の才能なのかな」
「ほんとだよ! 才能があるとかないとかは、それが好きで、努力が出来る方向性なのかもしれないね。わたしは勉強とスポーツを何とか努力して、結果を出してる。それが学校の求めてる『いい子』の姿にたまたまハマったってだけ」
「……うん。私も、絵だったらいくらでも、いつまでも描いててもやだなって思わない」
「でしょ? 毎日描いてても、平気なんでしょ、里実ちゃんは」
「うん」
「それがほんとの、人生を支える才能、っていうものなのかもしれないよ? 学校の勉強とかスポーツとかは、人生を渡っていくための基礎力にはなるけど、ずっと好きでいられる趣味にはならなさそう。毎日やってて平気な好きなこと、わたしも見つけたいなあ」
「美々花ちゃんなら何でもできそうなのに、そうじゃないんだね」
「そうだよ、里実ちゃん。わたしも悩める中二の女の子なのです」
ふふ、とふたりは笑い合った。交流館のどこかから、調子はずれの楽器の演奏がゆるやかに聞こえてきた。




