65 お金と仕事と将来と 【社会派ヒューマンドラマ】 陽 葉月
陽と葉月は、いつもの公園にいた。
「あのね、陽」
「なんだよ」
「ぼくがうちのために働いてお金が欲しいって、お父さんに言ってみたんだけど」
「ああ」
「ぼくたちのために、去年の12月に始まった『自然災害債務整理ガイドライン』の特則っていうのがあって、今回のコロナでも収入が減っちゃったひとが使えるゲンメンソチ、っていうのがあるから、いざとなったらそれを使うから大丈夫だ、って言ってた。気にせずぼくは勉強しなさい、だってさ」
「そうか」
「いいのかな。その言葉に、甘えちゃっても」
「高校を卒業するまでは、本格的に仕事をするのは無理だからなあ。かといって、中卒で仕事をすることになったら、給料が高卒だとか、大卒だとかより安いっていう問題もある。大きな目で見れば、勉強をたくさんして、返済しなくてもいい奨学金のある学校を選んで進学する、っていう手の方が良さそうなのは確かだ」
「うん……高校に行けなくなるだけじゃなくて、家とか車が、お金を払えなくなって使えなくなるかもしれないなんて、今まで考えたこともなかったよ」
「そのへんは、たぶん減免措置とか、コロナを理由にしたローンの金額変更を金融機関にしてもらって、ゆるく、お金が少ない生活でも出来るようにしていくしかないんだろうなあ」
「ぼく、大人になったら絶対に借金しない! いつもニコニコ現金払いで行くよ」
「はは、それが一番かもしれないな。今、高リスクの株だとかFXっていうギャンブルっぽいお金の運用に手を出して、失敗して余計にでかい借金を抱えちまった、っていう大人も増えてるみたいだからよ」
「お年玉、大切に使わないとねぇ」
「そうだな。大人が一所懸命働いて、作ってくれた金だもんな」
「よし、ぼくが高校へ行くときのために使うよ」
「そりゃいい。あとな、葉月。ほんとにお金がなくて、早いとこ仕事に就きたいんだったら、進路先に中学校の卒業で行ける『高専』を選ぶといいかもしれないぞ」
「ええと、それは高校とどう違うの?」
「しっかり専門技術を身に着けて、就職するための学校だよ。公の機関だから費用も安いし、一流企業のひとたちからも注目されてる。適当に上の学校を出てりゃあいい時代は、この先、あんまりなさそうだからな。金を大切に使って自分の力を伸ばすなら、そういうところも考えたらいいさ」
「そうだね。いろいろ教えてくれて、ありがとう、陽」
「お前の役に立てるなら、作家になるために身に付けてるこの知識が活かせてうれしいぜ」
葉月に礼を言われ、陽はへへ、と照れくさそうに笑った。




