64 はたらくということは 【社会派ヒューマンドラマ】 陽 葉月
陽と葉月は、今日も公園にいた。学校で、児童の労働問題、という授業を社会科で習ったところで、若い女性の織賀先生が、いつになく強い口調で
「……児童の労働問題は、ぜったいに何とかしなくてはならないことなのです」
そう言った。このことについて、陽と葉月は宿題でももらったかのような真面目さで、お互いの考えや気持ちを話すことにしたのだった。
「そもそもさ、陽。子どもが働くのは、悪いことなの?」
「日本では、そうだな。テレビだとか、映画や演劇なんかに出演する子役みたいな特殊事情があるやつを除いて、基本的には中学校の卒業までは、子どもは仕事をしちゃいけないことになってる。高校に入っても、18才までは年少者の保護規定っつーのがあって、深夜の仕事とか、危険な仕事はさせちゃいけないって労働基準法ってやつで決まってるんだよ」
「そうなんだ。でもさ、最近のネットを使って、LINEで使うスタンプ用とかに作った自分の絵とか、ブログのコメントを集めたエッセイとかを有料にして、収入を得てる、ぼくらくらいの子もいるじゃん。本人はむちゃくちゃ楽しそうにいっぱい仕事をして作品を出してるのを感じるときも多いけど、あれも労働問題になるの?」
「うーん。本人が楽しくて、いつでも仕事がしたいって思うときは、どうなるんだろうな?労働基準法には、雇われた労働者として、子どもが辛かったり苦しかったりしないように配慮されてるけど、自分で仕事を作る側に回る場合は、どうだったかなあ」
「先生は児童の労働問題、ってひとくくりにするけど、楽しくてつい働きすぎちゃう子だって、きっといるよねえ」
「まあな。先生が問題にしてるのは、法律できっちり子どもが守られていない海外なんかで、毎日ゴミ捨て場で使えそうなものを朝から晩まで探して一日1、2ドルくらいしか手に入らない生活をしてる子どもとか、勉強がしたくても、学校に行く金がなくて働かなくちゃならない子どもとか、児童売春で、そういう仕事をするしかない状態の子どもの問題を言ってるんだよ」
「そうなんだ……。実はさ、陽」
「なんだよ」
「ぼくのお父さんのことなんだけど」
「ああ、飛行機の機長さんをやってるんだろ?」
「うん。だけど、今コロナのせいで仕事が減っちゃったみたいなんだ。お父さんと、お母さんと僕とで暮らしてる家のローンもまだあって、大変なんだって。それ聞いたら、ぼくも何とか力になってあげたくって。早く大人になって、仕事をしたいって思ってるんだ。なんなら、今からでも勉強より仕事をして、お金が欲しい」
「俺らは義務教育中だよ、葉月。勉強をするのが俺らの仕事だ」
「でも……」
「だけど、空いた時間を使って、自分から仕事を作っていくのは悪いことじゃないと思うぜ! 子役みたいに例外は認められてるんだ、何か方法はあるはずだ」
「そっか! そうだよね」
葉月の顔は明るくなった。
「ぼく、もうちょっと調べてみるよ」
「ああ。そういう事情なら、俺も力になるからよ」
「ありがとう、陽!」
中学生が、コロナで収入が激減した親の力になるために、勉強を続けつつ仕事をしてお金を得る。ふたりのその健気なチャレンジを祝福するかのように、冬場の日の光はさんさんと輝いていた。




