62 20XX年、暴言おとこを支える者は? 【SF】
20XX年のこと。
テレビで、不快な行為や発言をする出演者を観て、おとこはコイツを許すべきではないと義憤に燃えていた。
彼には、実はやらせであるという考え方は無い。出演者は自分の意図でもって、ひとつひとつ目ざわりな行動をする最低なやつなのだと思いこんでいた。
おとこは、ネットに匿名でログインし、義憤を言葉にして吐き出そうとした。
「お前、最低だな!」
文字を入力して相手のサイトのコメント欄にそう残そうとしたとき。
『この言葉を相手に与えると、相手が死ぬ可能性すらあるメッセージをあなたは送ろうとしています』
送信ボタンを押すと、そんなメッセージが画面のど真ん中に浮かびあがった。
「な……」
おとこは驚いた。往生際が悪く、別の言葉を探す。
「お前、いっぺん〇ね」
『その言葉、自分が言われたらどう思いますか?』
そう表示され、メッセージの送信がやはり出来ない。
「バーカ」
『バカという言葉を使うひとがバカだという昔からの格言、あなたは知っていますか?』
三度、入力を拒否されて、おとこはだんだんと冷静になってきた。すると、今度は何もメッセージを入力していないのに、向こうからこんな言葉が表示された。
『イライラしているあなたは、実は悩みごとや、苦しいことがあるのではないですか』
大当たりだった。ただでさえブラックな職場で働いていたのだが、会社の都合でクビにされ、あまつさえ給料を払ってもらえない月が発生していたのだ。その倒産したブラックな会社への義憤を、テレビの不快な出演者への義憤に置き換えて考えようとしていたことに、おとこは三度拒否され、自分の立場を聞かれて気づいた。
向こうから示された言葉の下には、自分のメッセージを入力できる欄があった。
「実は、会社をクビになって……」
そう、素直に入力してみた。
『任せてください。支援するひとびとは必ずいますから。次の質問に答えて頂ければ、最適な支援組織におつなぎいたします』
おとこは、涙で質問の一覧が見えなくなった。そして、自分をブロックするのではなく、支えようとしてくれるこのメッセージの主を知りたくなった。
「あなたは、誰ですか」
いくつかの質問に答えつつ、最後の自由な文字入力欄にそう入力してみた。
『支援システムの運用者、ケアさんとでも呼んで下さい。あなたに最適な支援組織は……』
おとこは心底、ケアさんと名乗るメッセージの主に感謝した。
その主が、過去の自殺者が続出した事件を受け、作られた最新式の暴言ユーザーケア運用AIであることを、おとこはまだ、知らない。




