54 お肉のはなし 【社会派ヒューマンドラマ】 陽 葉月
12月だと言うのに暖かい。陽と葉月は、秋の装いでいつもの公園に来ていた。
「うーん……」
「なんだよ葉月。また悩みごとか?」
「うん。前、陽に話した鶏さんのことなんだけどさ」
「ああ」
「結局、ぼくもクリスマスのチキンは楽しみにしてるし、それは鶏さんを殺してるんだよね、って思って」
「あんまり深く考えんなよ。残さずに綺麗に食べてやりゃあ、いいんだからよ」
「うん……。でも、それ考えたら、食べる物は野菜とか果物とか、タンパク質は豆で取ったら良くて、まあ、それも植物たちを傷つけることにはなるんだけど、赤い血を流して生き物を殺すよりはマシなんだよねって思っちゃって」
「まあ、動物、とくに哺乳類の牛や豚を食べ物として育てるには、たくさんの水とエサとが必要で、それが生態系のバランスを崩すって言われてるのは知ってるけどなあ。だから今、クリーンな環境で養殖された昆虫食とか魚介類が世界的に注目されてるみたいだな」
「今まで食べてきたものを変えようって思うの、なかなか難しいね」
「そういや、最近ソイミートって言って、大豆で出来た肉の味のするやつが近所のハンバーガーショップで売りだしたらしいぜ」
「ほんとに!?」
「ああ。もともと、ビーガン(菜食主義者)とか、宗教で肉が食べられないひとたちもいて、五輪オリンピックには海外からそんなひとたちがやって来ることを想定して、用意してたんだってよ」
「そっか……じゃあ、ハンバーガーショップに行ったら、頼んでみようかな」
「そうしろよ。急にみんなで肉を食べるのを全部やめる、っていうのも、じゃあ店頭に並んでる肉を買わないで食べずに腐らせてもいいのかとか、畜産業のひとたちの生活はどうなるのかとか、あるからな。いろんな問題に心を向けて、すこしづつ、やれるとこからやって行けばいいんだよ。獣医師になるとか、政治家になるよりは、バーガーショップでソイミートを食べるくらいはすぐに出来るしな」
「あはは、確かにね。……ありがとう、陽。聞いてくれたら、またすこし気持ちが晴れたよ!」
葉月は心底、友だちの陽がいてくれて良かったと思っていた。
この「ラフスケッチ」を始めたころは、大豆を使った疑似肉なんて未来の話と思いジャンル【SF】でもって第一話のお話を作っていましたが、いよいよモ〇バーガーやロッテ〇アなどで本当に売り始めるようです。レストランで食事を運ぶロボットの登場やテレワークや自動運転、宇宙技術の進展、そしてこの大豆の疑似肉の販売の開始。もう未来じゃなくなってる今このときの不思議を感じます。




