53 ニュースは悲しい? 【社会派ヒューマンドラマ】 陽 葉月
陽と葉月は、いつもの公園にいた。
「陽、新聞読んでる?」
「ああ」
「ぼくも陽にならって、お父さんたちが読んでるのを借りたんだけどさ……」
葉月が幼さの残る顔を曇らせる。
「なんていうか、新聞って悲しいことが多くない? 誰かが殺されたとか、景気が悪いとか」
「うーん。その日その日で変わってくるし新聞ごとの個性にもよるぜ? 読者投稿欄とかは、けっこうほっこりするネタも多いな。記事だってアートの紹介とか、誰かがひとのためになる発明をしたとか、最近だったらハヤブサ2が成功したとか」
「あっ、それは思った! 遠い小惑星まで行って、帰ってきたんでしょ?」
「そうさ。ほら、悲しいことばっかりじゃないだろ。葉月は何を読んで悲しいと思ったんだ?」
「……鳥インフルエンザで、たくさんの鶏さんが殺処分されたっていう記事」
「……ああ、その記事は俺も読んだよ」
「おかしくない? ぼくらが新型コロナウイルスにかかったからみんな死んでね、ってされたら絶対イヤだよね? 鶏さんはぼくらが食べるために育ててるわけだけど、食べることも無くて、ちょっと病気が出たらそのまわりの鶏さんもみんなぜんぶ殺すのっておかしくない?」
「鳥インフルエンザはなあ……人間がかかる場合もあるみたいだから、すごく警戒されてんだよ」
「ネットで調べてみたらさ、海外だと鳥さんたちのためのワクチンを作って、鳥インフルエンザウィルスにかかりにくくできてるところもあるんだって」
「まじか」
「うん。未来には、きっと動物さんにもワクチンを打って、病気を防ぐことが出来るようになると思う。日本って遅れてるよねえ」
「だったらさ。葉月がそれをやればいいんじゃね?」
「え、ぼくが?」
「そうさ。いっぱい勉強して、現場で動物にワクチンを打つなら獣医師になったらいいし、家畜が簡単に殺処分される世の中がおかしいと思って、それを変えたいんだったら政治家になればいい。どのみち、めちゃくちゃ努力が必要になるけどな」
「そっかあ。それだと、家でプログラミングやって、カイゴして、ときどき農業を手伝うってことと両立できるかなあ」
「あー。ちょっと無理かもなあ。ぜんぶやったら、ワーカホリックで倒れそうだ」
「うん、でも考えてみるよ。文句言ってるより、ぼく自身が未来を変えていけばいいことだっていうのは、分かったよ、陽」
「ま、俺も葉月がほんとになりたいものがあるんなら、応援するからよ」
「ありがとう、陽!」
葉月は友のおかげで、笑顔を取り戻した。




