51 ふたりでいじめに立ち向かう 【社会派ヒューマンドラマ&現代恋愛】 堪士 優芽香
堪士と優芽香は、行動をともにすることが多くなった。登校するときは、いじめる生徒もいじめているヒマはないので別行動だが、放課や昼ごはん、下校はともにする。いじめは孤独な人間をターゲットにして激化するものだ。誰にも苦しみを明かさない人間をわざわざ選んで、教科書を隠したり、ノートに落書きをしたり、卑猥なことをさせたりして、追いつめていく。当人が自殺すれば、ゴール。そんな感性で幼稚な集団が病的にいやがらせをする。いじめ、と表現すればあまりに軽い。それはもう脅迫であり、大人であれば警察に相談したり、法の手を借りる案件なのだ。
堪士と優芽香が、ふたりでいる姿はクラスメイトたちの密やかな話題に上がるようになった。といっても、いじめる側に与しない一般の生徒たちにとっては、それは温かなものというか、祝福するような、羨ましさと憧れが混じったような、同じ学年でありながら人生の先輩が出来た、とでもいうような目線だ。
そうした、恋に憧れることもなく、下卑たことしか考えられない、いじめるグループのクラスメイトがわざわざやって来てこう言うのだ。
「はは、クズとブスでお似合いじゃん? もうヤッたのか?」
昼ごはんを、堪士と優芽香が楽しくふたりで食べているところに、それをぶち壊しにしたいという明確な悪意の気持ちを腐った言葉に乗せて。
「……ああん?」
堪士のこめかみに青筋が浮いた。もう、堪士はひとりではない。自分だけがターゲットになるなら我慢もするが、こいつは優芽香をブスと言った。おまけにゲスな詮索まで。それを許すわけにはいかない。
「あっ、タエくん、わたしに任せて?」
優芽香が隣でささやいた。
彼女は隠し持っていた刃物をそいつに見せた。
「切るよ? それで、先生に言うから。タエ君をいじめる人間がいるから、嫌になって切ったって。名前、先生に公表されたい?」
切るよ、という言葉は、優芽香自身に向けたものだ。しかし、彼女が本気であることと、彼女は武器を持っていて、自分は何も持っていない現状は分かったようで、いじめるグループに属するクラスメイトは舌打ちをして去って行った。
「メシの時間、台無しだな。……優芽香。俺が殴るの、止めたろ」
「うん。あんなやつのために、暴力沙汰にすることないよ、タエ君」
「自分を切るのも、立派な暴力だろ」
「わたし自身を切るだけなら、大丈夫だよ」
「大丈夫じゃねえよ!」
こつん、と堪士は優芽香をこづいた。
「やるなとは言わねえよ。だけど、お前が俺を守って自分を切るくらいなら、俺にそんな思いをさせるやつをぶん殴らせろ」
「タエ君……」
昼休憩の終わりを示すチャイムが鳴った。
「じゃあ、またな、優芽香」
「うん。……ありがと、タエ君」
もう、ひとりではない。そのことが、ふたりを無敵のような気持ちにさせていた。




