5 可愛くないタンポポ【童話】
あるところに、可愛いタンポポと可愛くないタンポポが咲いていました。
可愛いタンポポは太陽の恵みをたっぷりと受けて、花びらの一枚一枚が花火のように艶やかでした。
そして可愛くないタンポポは、花びらがしおしおと縮れていて、日陰を好み、可愛いタンポポの陰でひっそりと咲いていました。
しかし可愛いタンポポはいささか高慢で、たびたび、自分の美しさを可愛くないタンポポに誇ってみせるのでした。
「わたしはこんなにも美しいの。それというのに、同じタンポポというのにあなたは一体どうかしら」
可愛くないタンポポは、そう言われてちっともうれしくありませんでしたが、自分の醜さは心得ていましたので、可愛いタンポポがそう言うのも、最もなことだと、ただうつむいておりました。
「わたしには日陰がちょうどいいのです」
と、精一杯の声で可愛いタンポポに訴えますと。
「なんてかわいそうなあなた!」
そう、可愛いタンポポは大げさに悲しんでみせました。
でも、可愛くないタンポポには、分かっていました。
可愛いタンポポは、自分しか可愛くないのです。
可愛くないタンポポを引き合いに出して、自分が誇らしく思えればそれで良いのだということを、可愛くないタンポポは知っていました。
しかし、ある日事件は起きました。
人間の女の子が、タンポポたちの咲いているところへやって来たのです。
「わあ、このタンポポ綺麗!」
女の子は可愛いタンポポを見つけて声をあげました。
それもそうでしょう、と誇らしげに可愛いタンポポが風に揺れます。
「もーらった!」
女の子は可愛いタンポポの茎をぽきっと折り、手で花を摘みました。
「いたいいたい!」
可愛いタンポポは悲鳴をあげましたが、女の子には聞こえていません。
「お部屋に飾ろうっと」
にこにこと満面の笑みで、女の子は去っていきました。
おそるおそる、可愛くないタンポポは、女の子の去っていったあとを見ていました。
数日がたち、可愛くないタンポポは綿毛になりました。
空へと旅立つ綿毛の子どもたちに、可愛くないタンポポは言いました。
「子どもたち。くれぐれも、お前たちは可愛いタンポポには、なっちゃいけないよ。摘まれないためには、日陰で目立たないようにしていることが一番なの」