47 モノクロの恋愛映画みたいにバラを持って 【現代恋愛】 犬養芳也 美貴
美貴は、恋人の犬養芳也を待っていた。
駅。緊急事態宣言解除の知らせを受けて、すこしづつ人の流れは戻ってきており、駅の近くの飲食店も営業を再開しつつある。
美貴と芳也が住んでいる地域の新規感染者数はゼロだ。夏を控えての昼の蒸し暑さもあって、三密でない外でのマスク着用者も減ってきた。
新型コロナウイルスは、太陽の光に弱いということが科学調査で判明している。どんどんと強くなっていく太陽の光は、今後もそのもとで行動するひとびとをウィルスから守ってくれることだろう。
だからと言って、室内は別だ。美貴もカバンに夏用の肌触りの心地よい生地で作った自作布マスクを入れている。
マスク不足のときに、動画を見て、見よう見まねで作ったお手製の布マスクをいくつか経て、上手に出来たこの布マスクだ。愛着もある。スーパーや、緊急事態宣言が解除されて、ときどき行くことになったオフィスで大活躍している。
「美貴ちゃん!」
駅の改札口を抜けて、芳也が歩いてきた。
「ヨシ君……!? どうしたの、それ」
久しぶりの再会に喜びを感じるよりも先に、美貴は目を丸くした。
芳也は、片手に大きな花束を抱えていた。赤いバラの花だ。黄色、白……。色を問わずバラはちょうどこの時期が盛りだ。
「いやあ、行きがけに花屋さんを通りがかったら、あまりに綺麗だったから。ちょうどいいなと思ったんだ」
「ん……その気持ちはとてもありがたいし、とっても嬉しいんだけど……」
美貴は恥ずかしそうに辺りを見る。案の定、何事かとこちらをちらちらと見ているひとびとがいた。
「何だい」
「もう! いいや。……歩こう、ヨシ君。それこそモノクロの恋愛映画みたいに!」
美貴は手を差し出す。
二人は久しぶりに手をつなぎ、賑わいを取り戻しつつある駅前の町へと消えていった。




