41 小学6年生、この長い春休みに将来を話し合う 【社会派ヒューマンドラマ】 陽 葉月
小学6年生。この4月から中学生になる少年、葉月は、同学年、同クラスだった友だちの少年、陽と公園にいた。
「良かったよな、俺ら家どうしで付き合っててさ」
陽がほっと息をつく。今年の卒業式は、彼らの学校は中止となってしまったのだ。家も分からず、中学校も別になるのにちゃんと挨拶できなかった子もいる。
「ほんとだよ。でもぼくら、今ノーコーセッショクだよね」
葉月がそう言ってけらけらと笑った。
「世の中、これからどうなるんだろうなあ。最近、親が取ってる新聞を読んでるんだけどさ」
「お、陽は頭を鍛えてるんだなあ。やるじゃん」
「テレビとかゲームとか、ずっと見てると飽きるだろ? その点、新聞はいつも新しいことが分かるから」
「で、なになに? 最近の陽のビッグニュースは」
「今日のとっぷは、カイゴホケンの話。今だって、カイゴの仕事は人手が足りなくて大変なんだけど、このままいくと本当に人がいなくなるんだって」
「えー! じゃあ、ぼくらがおじいちゃんになっても、誰も面倒を見てくれないの!?」
「そんでさ、アイティーっていう、俺らが勉強することになるプログラミングの人手も足りないらしくて」
「マジ!?」
「で、農業をやるひとも足りないんだって」
「どーすんの。カイゴもアイティーも農業も、やるひとがいなかったら、オトナになったぼくらの社会、回んなくね!?」
「だからさあ、俺、それをぜんぶやれるようになりたいなって思ってさ」
「ええ!? どうやって」
「今、いんたーねっとを使ったザイタクキンムが注目されてるじゃん? パソコンでプログラミングやるなら会社に行かなくてもそれで出来るし」
「カイゴは?」
「家にいるなら、じーちゃんやばーちゃんの面倒を見させてもらうことができるようになるし。大人になって、俺のじーちゃんばーちゃんがいなくなったら、近所のうちのじーちゃんばーちゃんのところをホーモンカイゴすることは、できるようになると思うんだ」
「ふむふむ」
「で、ホーモンカイゴしながら、人手がむちゃくちゃ必要なときだけ、農家のお手伝いをするんだ」
「すごいな! でもそれって、ぼくらがこき使われるだけにならない?」
「どうだろな。会社に入ったって、疲れた親父の顔見てたら、こき使われてるんだろなって思うし。今まで面倒見てくれたひとの世話が仕事なら、マシな気もする」
「なるほど」
「今の時代、高校や大学に行って勉強するのは、別に中学を卒業してすぐじゃなくてもいいと思うんだよな。体力があるうちからカイゴに慣れた方がいい気もするし、国のトップのひと、高校でカイゴをやれるところをたくさん作ってくれねえかなあ」
「確かにね! 高校の普通科は、大学に行く気がないと意味ない気もするよ」
「で、高校に行ってても、人手が足りてない農業のひとたちのところに、忙しくなるときは手伝わせてもらいに行けたらいいと思わね?」
「いいね! でも、今はそんな学校無いよね……」
「なー。プログラミングのことだけじゃなくて、これからの俺らが生きていくニッポンって国のいろんなことを、考えてほしいよなー。俺らだっていつかはじいちゃんになるんだからさ」
「ぼくらみんなが、プログラミングやって、カイゴやって、農業やってお金をもらって、いつかは僕らもじいちゃんになって誰かのお世話になることが出来るなら、いいよね」
「だろ?」
「息抜きに、いんたーねっとで仕事と仕事のあいだに音楽聞いたり、ゲームやったりもできるなら、ザイタクキンムも悪くない気がする」
「ま、とりあえずは小学校を卒業した俺たちだ。大切な、すこし長い春休みを、楽しもうぜ」
「うん!」
大人びた顔をして話していた二人は、子どもらしい表情に戻ると、公園の広場に駆けていった。




