38 幸せのマグカップ 【現代恋愛】 犬養芳也 美貴
そこそこ売れている作家、犬養芳也と恋人の美貴は、もうそろそろクリスマスになろうというこの時期に、ふたりでショッピングモールに来ていた。
気になった店に入ったり出たりしながら、手をお互い絡ませて歩く。それだけで幸せになれるのだから、恋愛とは不思議なものだ。
「あっ」
美貴が、100円ショップで声をあげた。
「何? 美貴ちゃん」
「このマグカップ、すごく可愛い!」
美貴は、小さなシマリスと、どんぐりと、数種類の木の葉がたくさんある柄のカップを芳也に見せた。
「買う?」
「うん!」
「高いものでもないし、僕が払うよ」
「わあ! ありがとう。ヨシ君からのクリスマスプレゼントだね。うれしい」
美貴はホクホク顔だ。
「こういう、モノとの出会いって不思議よね。ものすごく高いものでも、自分にとっては欲しいとは思わない場合もあるのに、こうして100円ショップで素敵な出会いをするときもあるじゃない?」
「そういえば、確かに」
「今日は、ヨシ君と一緒にいたときに見つけたものだから、思い出としての価値もものすごくあるよね」
「喜んでもらって、僕もうれしいよ」
芳也と美貴はレジにマグカップを持って行く。チン、と会計がすぐに終わった。
払った金額は100円と消費税。だが、そのマグカップの真の価値はプライスレスになった瞬間だった。




