26 紅葉を見に【現代恋愛】 犬養芳也 美貴
「美貴ちゃん!」
「ヨシ君!」
お互いの姿を駅で見つけて、二人は声を掛け合った。
今日は、二人でお寺の紅葉を見に行く予定だった。並んで歩きだす。
「寒くなってきたね」
「うん。昼でも、コートがいるよ」
他愛ない言葉を交わす。
「ヨシ君、小説は、うまく行ってる?」
「うーん、実は、またちょっと停滞気味」
「そっかあ。まあ、今まで書いてきた作品は、そこそこ売れてるんでしょ? だったら慌てずにね」
「うん。美貴ちゃんは優しいな」
芳也は目を細めた。
そうして話しながら歩いているうちに、寺に着いた。境内には大きな池があり、鏡面のような池に、すっかり赤くなったモミジやサクラが反転して映り込んでいる。
「わあ! 綺麗だね、ヨシ君」
「うん」
「うちの母親がさ、年を取っていけばいくほど、紅葉の綺麗さが分かるようになるって言ってたよ」
「そっか。四季を人生に例えるなら、秋は人生の終わりがけだもんな」
そうして芳也は一枚の紅葉した葉を拾った。おそらく落ちたばかりなのだろう。真っ赤に色づいたそれは、葉脈がまだ生き生きとしている。
「よく見ると、ひとつひとつの葉っぱに、それぞれ個性があるんだなあ」と芳也。
「そうだね。全体の紅葉を見るのもいいけど、一枚の葉っぱも風情があるね」と美貴が応じた。
芳也はそっと、空いているほうの手を美貴に差し出した。
美貴も静かにその手を握る。
温かな秋の日差しが二人に、静かに降り注いでいた。




