23 十五夜をふたりで【現代恋愛】 犬養芳也 美貴
仕事にくたびれて家に帰る途中、美貴がふと夜空を見上げると月が出ていた。完全な円形ではない。しかし、その丸に達しないすこし欠けた姿に、また情緒がある。
「ああ、今日は十五夜だったっけ」
美貴は目を細めた。仕事に追われているとあっという間に時間が過ぎる。この間までの暑さはどこに行ったのだ。心地よい、涼しい風が吹いている。
よし。今日はヨシ君と飲もう!
そう決めた美貴は、彼女の恋人である「犬養芳也」に電話した。OKがもらえて、ほっとした美貴は待ち合わせ場所にした公園まで歩くことにした。途中、コンビニで酒とつまみを補充する。そして、とっておきの品物も探したら、あった。それを包んでもらい、美貴はコンビニを出て歩き出した。
数分もしないうちに公園に着いた。ベンチに犬養芳也が座っていた。
「ヨシくーん! 今日はありがとね」
美貴が微笑む。
「いいよいいよ! 今日が十五夜なんて、言われなかったら気づかなかったからさ。作家のくせに、そんな感性も無くなっているようじゃダメだなあって反省したよ」
「それはね、ヨシ君。ずばり、仕事のしすぎだよ! さあ、飲も飲も!」
二人は缶ビールのキャップを開けた。乾杯して、二人ベンチに座り、空の月を眺める。
「綺麗だねえ」
美貴が美しい十五夜を見て感想を述べる。
「ずっと昔から、人はこんなふうにして月を見てきたんだろうな」
「うん。きっと、こんなふうにして大切な人と見てきたんだよ」
美貴の言葉に、彼はすこし頬を紅潮させた。
「ヨシ君。今日はね、とっておきがあるんだ!」
「何?」
美貴はガサガサとコンビニの袋に手を入れて、とっておきのものを出した。包装を外すと、串に刺さったみたらし団子が出てきた。
「へへ、お月見と言えばお団子でしょ? 白いお団子は売ってなかったんだけどね」
「いいね。風情が出てきたよ」
「はい、ヨシ君」
美貴はまだ温かいみたらし団子を一本、彼に渡した。
二人で食べる団子の味は、いつもよりも何だか甘い気がした。