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21 学校で追いつめられた苺と、自殺した少女の霊。【心霊もの】


 小学校の頃は自分の名前が大好きだった。


「苺ちゃんっていい名前だね。かわいい」


 そう、素直に褒めてくれる友だちがたくさんいたから。小学校が終わり、主な友だちは私立の中学に行ってしまった。公立の中学に入ってから、自分の名前を(あざけ)るクラスメイトが現れた。


「苺ぉ!? どんだけキラキラネーム。似合わね」


 嘲る人物を中心に、失笑が教室に満ちていった。


 味方は誰もいなかった。父も母も仕事で忙しいので、自分のことで迷惑をかけたくなかった。一年はそれでも頑張った。へらへら笑ってクラスメイトの罵詈雑言(ばりぞうごん)を引き受けた。

 

 何のいたずらか、二年生になってもその(あざけ)るクラスメイトと同じクラスになった。


 苺は絶望した。へらへら笑うことすらできなくなった。そして夏休み。ひとときの休戦に、苺はほっとしていた。しかしもうすぐ二学期が始まる。


 スマホを見ると、ツイッターで、8月の終わりに苺と同じ中二の子が自殺したことが流れていた。


「はあ……わたしも死んだら楽になれるかな?」


 苺は自分の部屋の勉強机に突っ伏した。自分が死ぬところを思い描くといくらか気が(まぎ)れるように思えた。


(……後悔するよ?)


 どこからともなく声が聞こえた。


「え……何!?」


 苺は驚いて辺りを見回した。


(ここ、ここ。上だよ)


 声の主は、苺と同い年くらいの少女だった。ふわふわと天井の近くに浮かんでいる。


(どーも。そのツイッターで流れてた中二の女子でーす)


 長い髪をひとつにまとめた、制服姿の少女がニッと笑った。


「えええ!?」


(幽霊って、そのひとのことを考えている人のところに現れることができるみたい。今、ツイッター見てあたしの記事見てたでしょ? それだけで、なんか、繋がっちゃうみたいなんだよね)


「そうなんだ」


 苺は不思議と恐怖感を覚えなかった。


(君の名前は?)


 聞かれて、苺はビクッと小動物のように震えた。


「……苺」

(いい名前じゃない。かわいい)

「……ほんと?」


 小学校の時に聞いていた言葉を少女から聞けて、苺はぽろぽろと涙をこぼした。


(……どしたの?)

「うん……。そう言ってくれた人が久しぶりで」

(ふんふん)

「同じクラスにわたしの名前をからかうやつがいるの。……もう辛くて」

(そっかあ)

「死んだら楽になれる?」

(とんでもない!)


 宙に浮かんだ少女は、苦しそうに顔をゆがめた。


(自分で死ぬっていうのはさ。一番自分勝手なことなんだよね。罰として、あたしは同じ境遇の子のところへ行くようになったんじゃないかな)


「同じ境遇の子……?」


(あたしもいじめられてたんだ。辛くて自分で死んじゃったけど、今はそんなことするんじゃなかったって反省してる)


「そうなんだ」


(君の場合はさ、小学校のときの友だちに連絡を取ればいいんじゃないかな)


「えっ」


 苺はきょとんとした。学校にいる間、四六時中心無い言葉を浴びせられた苺にとって、人間関係はクラス内だけだと思いこんでいたのだ。


(死ぬ前に、友だちや親や教師や、ツイッターやラインだっていい。とにかくたくさんSOSを出せば、反応してくれるひとは必ずいるから)

「でも」

(小さなプライドなんて捨てちゃえ。学校が始まることで死にたくなるくらいなら、休めばいいんだよ。君は逃げていいんだ)

「そうなのかな」

(そうだよ! あたしみたいになっちゃダメだ)

「……分かった」


 苺はすこし気分が晴れた気がした。


(じゃあね)


 少女はバイバイ、と手を振った。


「どこに行くの……?」


(あたしたちみたいに生きるか死ぬかの瀬戸際にいる子っていうのは結構いるんだよ。君みたいに、あたしが見えて話ができる子ならこうして思いとどまってもらえたからいいけど、結局あたしと同じ道を辿る子もいてね。あたしは、自分の罪の償いとして、そんな子のところへ何度も行くようになってるの)


「……そっか。ありがとう」

(いやいや! これはあたしの罪滅ぼしだからね。こちらこそ、思いとどまってくれてありがとう)


 幽霊の少女は微笑んだ。そして、すっと部屋から消えた。


 小学校のころの友だちに、連絡してみよう。親にも言ってみよう。先生にも。それでダメなら、ラインかツイッターでも。自分で、味方がいないと判断していたけれど、誰かに言う勇気を持っていなかっただけなのかもしれない。


 苺は、とりあえず生きようと決意した。


 窓の外には、美しい夕日が沈もうとしていた。 

二学期が始まる前のこの時期、自ら命を絶つ子どもが一番増えます。人は生きているだけでいいんです。

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