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19 終戦記念日【ヒューマンドラマ】

 夕方になると、幾分(いくぶん)と涼しい風が吹くようになった。お盆休みの今日、由美子たちは墓参りにやって来た。

 鬼灯(ほおずき)とお花を墓に(そな)える。墓の前で手を合わせた。

「今日は終戦記念日だねえ」

 ぽつっと、老齢の母が呟いた。

 60代の主婦である由美子の母は、もうそろそろ向こうからお迎えが来る年齢だ。由美子の父は戦争からはかろうじて生きて戻ってきたが、戦地での無理が祟ったのか、由美子が生まれてすぐに亡くなった。そのあと母は女手ひとつで懸命に働き、由美子を育て上げた。

「戦争だけはしちゃいかん。しちゃいかんよ、由美子」

 いつもはのんびりとした調子の母が、語気強く言った。それは自戒のつぶやきのようにも聞こえた。

「そうだね。終戦記念日が、いつまでも続くといいね、お母さん」

 由美子は母に告げた。由美子も二人の娘の母で、長女はこの間出産したばかりだ。由美子の在家の墓参りには、母と二人で来ている。

「今は、調べるつもりがあれば、ネットで戦争のことをよく知れるようになっているみたいよ」

「ねっと……?」

「うん。辞書や図書館が側にあるようなものだから。でも、それはそれで、お母さんが語ってくれる戦争のお話は、うちの子にも孫にも特別なものになると思うの。だから今度会えたときに、お母さんから戦争のことをじかに伝えてほしいな。それまで元気でいてね」

「そりゃ頑張らないとねえ」

 由美子の母は大きくうなずいて、笑った。

 墓のそばを、一匹のトンボがすっと飛行していった。

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