14 枯れ木のスズメ【ヒューマンドラマ】
車いすを押して、良子さんを外に出した。散歩だ。エアコンの効いた室内は暖かいけれどどこか乾燥していて、良子さんはずっと居心地が悪そうだった。今日はいいお天気だ。散歩にはちょうどいい。
良子さんは84才。歩くことはおぼつかないし、耳もだいぶ遠いし、目もどこを見ているのかぼんやりとしている。けれど気丈で人の良い良子さんと一緒なのは、私も気分が良かった。
施設の横にちょうどある遊歩道を、車いすを動かしてゆっくりと行く。冬だ。枯木にスズメが群れをなしてとまっていた。
「ふーえ」
スズメの声を聞いて、良子さんが声をあげた。
「なあに? 良子さん」
「ふーえ」
幼子のような澄んだ瞳でスズメがいるほうを良子さんは見ている。
「あ、スズメね。スズメ。かわいいね」
良子さんが何を言っているのかが分かり、私も笑顔になった。
チュンチュンと皆でさえずるスズメたちを見て、ほんわかとした気持ちになる。
「寒いけど、外に出てこれて良かったねえ」
私が良子さんの耳元で言うと、良子さんは微笑んだ。
ほんのすこしの間の散歩だけれど、部屋の中では見られない、田畑や木々や鳥たちを見られることはありがたい。
良子さんはいい年だけれど、もうすこしだけ、こんな会話ができる穏やかな日々が続くことを願わずにはいられなかった。




