12 冬の日もふたりなら【現代恋愛】 僕 美優
「寒いなあ」
僕は手袋とマフラーを持ってこなかったことを後悔した。
「雪まで降ってきた」
少し、肩をすぼめる。
「確かに寒いけど、わたしはこの季節が大好きだよ」
隣を歩く美優の笑顔がこぼれた。
「なんで? 寒いだけだろ」
僕は夏が好きだ。激しく鳴く蝉の歌、夜を彩る大きな花火。草木も元気に伸び伸びとする、エネルギッシュな季節。そうして冬はどうだろう? とにかく寒い。木々の葉はとっくに散って、裸木が寂しく突っ立っている。
「ほら、雪」
美優が手袋に雪の結晶を載せた。
小さな、精密機械の部品のような姿。
「雪には秘密がありそうでしょ、この世界の大きな秘密が」
美優は歌うように言った。
「そうかなあ」
「そうだよ。それにさっ」
美優がスポッと片方の手袋を取った。その手で僕の手を握る。
「こうすると暖かいでしょ」
僕を悪戯っ子のように見つめる美優。手のぬくもりが伝わってくる。
「こんなことができるのも、冬だけだから」
「確かに」
僕はうなずいて美優の手を握りかえした。
「人の温かさを感じるのは、この季節かもしれないね」
「でしょー。しばらくこうしてよっ」
「うん」
美優となら、この季節も好きになれそうな気がした。