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11 海に癒される【ヒューマンドラマ】
百瀬はひとり、秋の海岸にいた。すこし前にあれほどいた水着の人々の姿は影も無く、大きな青い空と海とがどこまでも広がっている。水平線にはマッチ箱のようなタンカーが、小さくぽつぽつと見えている。いずれどこかの国に向かうのだろう。
彼がここに来たのは、仕事でミスをして、こっぴどく上司に怒られたからだった。仕事を始めて半年、慣れてきたころの手痛いミスだ。上司に怒られたことより何より、自身が情けなかった。休みまで待ち、百瀬は海に来たのだった。
この海岸は都会に出た百瀬にとって、故郷の、かけがえのない風景だ。子どもの頃から何かあるとここに来た。そうして、寄せては返す波を見て、海のさざ波の音を聞いて、心が落ち着くまで海岸に立つのだ。
「っしゃああああ!」
誰もいない海岸で、百瀬は気炎を吐いた。
大きな自然を見ていると、あれほど頭の中を占めていたミスのことが、小さなもののように思えてきた。
これから挽回していけばいいのだ。この大きな空と海とに比べれば、何ほどのことがあるだろう。
百瀬は深呼吸した。潮の香りが鼻に入った。