表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/99

10 セミーとコジロー【童話】

 うんと暑くなってきた夏の夕方、アブラゼミの幼虫セミーは土から顔を出しました。

 7,8年チュウチュウと樹液を吸ってお世話になってきた大木ともお別れです。

 セミーたちは土の中にいるのが得意で、地上を歩くのは苦手です。

 それでも、羽化して空を飛ぶために、地上に出てくるのです。

 のそのそとセミーが歩いていると、上からバサバサと大きな鳥がりてきました。カラスです。

「おなかがへったなあ。お前うまそうだな」

 カラスのコジローはしげしげとセミーを見つめました。

「かんべんしてくださいカラスさん。ぼくは空を飛びたいのです」

 セミーは震えあがってしまいました。

「そういや、7年8年お前たちは土の中にいるんだよな。空を飛ぶ気持ちよさも知らずに食べちまうのはちょっとかわいそうだ。よし、待ってやるよ」

「待つ?」

「セミになって寿命が切れそうになったら俺のところに来るんだ」

「わかりました。見逃してくれてありがとう、カラスさん」

 そうしてセミーは近くの木によじのぼり、幼虫のカラを割って一晩のうちに立派なアブラゼミになりました。 

 空を飛んだ時の爽快なこと!

 今まで暮らしていたところが小さく見えます。

 セミーは生まれて初めてのセミの歌を鳴らしました。

 何日かしてセミーの鳴き声を気に入ってくれたメスのアブラゼミ、アブラちゃんが現れ、二匹は夫婦になりました。

 セミーは大満足でした。

 (はね)もだいぶ傷つき、飛ぶのはやっとでしたが約束通りセミーはコジローのもとに帰ってきました。

「本当に帰ってきやがった。律儀なやつだな」

「あのときカラスさんが見逃してくれたから、ぼくのセミとしての一生は、無事ここまで来れたんです。どうせ明日かあさってには死んでしまう身です。さあ、ぼくを食べてください。カラスさん、ほんとうにありがとう。食べられてカラスさんの命になれるなら本望です」

 よろよろとセミーがコジローに近づきます。

 覚悟を決めたコジローは、できるだけ一度で痛くなく食べれるように、ぱくりとセミーをついばみました。

 腹を満たしたコジローは、しかし、悲しげに一度だけ鳴きました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ