1 未来食レストラン【SF】
「ごめん! 待った?」
美緒がほの暗い空に向けて白い息を吐きながら駆けてきた。
「ううん! 早いね、時間まだあるじゃん」
佐奈がにっこり笑って答える。今日は今からふたりで忘年会だった。
しかし、店は決めていない。ぐるぐる、町を歩いて気の向いた店に入るつもりなのだ。
「それじゃあ、行こう」
ふたりは歩き出した。イタリアン、和風、沖縄料理……。おいしそうな看板がふたりを誘惑する。
「おなかすいたなあ」
「うん。どこがいいだろうね」
ふと、ふたりの足が止まった。
未来食レストラン「トゥモロー」と看板にある。
「未来食……?」
「面白そうだね、ここにしよっか」
ふたりは店に入ってみた。
「いらっしゃいませー」
愛想の良いウエイターがふたりを迎える。
「あの、ふたり頼みたいんですけど」
「ようこそ。お席にご案内します」
ウェイターがにっこりと笑う。男なのか女なのか分からない中性的な顔立ちだ。ウェイターがくるりと後ろを向くと、首のところにちかちかと点灯する小さな明かりがあった。
「まさか、ロボット?」
「はい」と、ウェイターが答える。
「すごーい」と佐奈。
「うん、科学技術の発展は、ここまで来たんだねえ」と美緒もしみじみと言った。
ウェイターに、席に案内される。ふたりは椅子に座った。椅子とテーブルは案外居心地の良い、昔ながら喫茶店のようだった。
「メニューでございます」
「ありがとうございます」
ふたりはメニューを受け取る。
「ねえねえ、宇宙食ってのがあるよ」
「未来食ってのもあるね」
興味津々だ。
「わたしは『宇宙サラダ』にしてみる!」と佐奈が言う。
「じゃあ、私は『未来ステーキ』にする」と、美緒も決めた。
「かしこまりました」
ロボットのウェイターは丁寧にお辞儀をすると、店の奥に入っていった。
「どんなのが出てくるんだろ」
「楽しみだね」
ふたりはどきどきしながら待った。
「お待たせいたしました、こちらが『宇宙サラダ』と『未来ステーキ』になります」
ウェイターが品物を持ってきた。コトリ、とテーブルにふたつの皿を置く。
サラダは、見た目はふつうだった。ステーキは、どことなく緑色をしている。
「この『宇宙サラダ』はどうしてそんな名前がついているんですか」
「はい。宇宙ステーションで栽培された野菜の子孫がこのサラダなのです」
「へえ……宇宙まで行った野菜のタネからできているってわけね」と佐奈。
「じゃあ『未来ステーキ』は……?」と、恐る恐る美緒が尋ねる。
「こちらは、ミドリムシを培養して作られたステーキです」
「げげ! ミドリムシ? それって食べられるの!?」
「はい。味付けはシェフによる特製ソースですし、おいしいと評判ですよ」
ウェイターがにっこり笑う。
「……では、ごゆっくり」と、ウェイターが去ったあとで、ふたりはひそひそと話した。
「佐奈の『宇宙サラダ』はいいけど、私の『未来ステーキ』はちょっと失敗した気がする」
「でもおいしいっていうじゃん。味をどうこう言うのは、食べてみてからにしよ?」
「う、うん」
佐奈がしゃりしゃりと野菜を口に運んで食べてゆく。
「いいなあ、ふつうで」
「美緒も食べてみなよ」
「うん……」
美緒はパクリ、と緑色の塊を食べた。
「あれ? けっこういける」と驚きの顔。
「未来に、食糧難の時代が来たら大活躍しそうだね、その『未来ステーキ』は」と、佐奈が笑った。
ふたりは、ほかにもいろいろ頼み、未来の気分を言葉通り、存分に味わうことができた。
ふたりは清算を済ませ、外に出た。
そうして、何歩か歩いて振り返ると、あのウェイターのロボットが見送っていた。
「すごい時代が来そうだね」と佐奈。
「そうだね、気を付けてないと、時代にあっという間に追い越されちゃいそう」と美緒が答える。
「今日はいいお店を見つけたね」
「うん」
食後のコーヒーを飲もう、と佐奈が言った。
美緒もそれにうなずく。
久しぶりの女子会だ。二次会は喫茶店にしよう、と決めた。まだ終電までに時間はあった。
読了ありがとうございます。こんなレストランがあったら行ってみたいという気持ちを作品に込めました。