おまけ17:釣り
「さーてお昼も食べたし、釣りにでも行こうかな」
「…………」
「…………」
「…………」
「これからダムに釣りに行くんだけど、誰か一緒に行く人ー?」
「…………」
「…………」
「…………」
……おい、誰か返事くらいしろよ。
行かないなら行かないって返事をしてくださいよ。
前にみんな一度ずつ連れてったんだけど、超絶楽しかったらしく二度目はなかったようだ。
リリセラとか「トーヤ様と一緒ならどこで何してても楽しいですよ」、って言っちゃうタイプじゃなかったの?
所詮、女子供にはわからん世界の趣味だよ。
いいよ、一人で行ってくるから。
……ホントに行くけど誰も来ないの?
◇
ダムへ着くと既に人が居た。3人居た。1人はオットーさんだ。
まあ、分かってて今日にしたんだけどね。
「やっほー」
「あっ、アシュクロフトさまっ!」
オットーさんよりも先に別の人が声を上げる。
んーと、誰だっけこの人? 見たことあるけど。
「えーっと、どちら様でしたっけ?」
釣りをしていた他の人たちもなんやなんやと集まってくる。
すごく野次馬っぽく感じるね。普通に寄ってきただけなのに。
「ほらっ、前にアシュクロフト様に助けていただいたっ」
うん、このテンションだし、前に助けたことがある系だとは思ったんだけど……。
「いや、俺に助けられたことのある人って、大小合わせたら町の半数を超える位に居るし……」
ある意味、俺の世話になってるという意味では全員助けてるし。
「アシュクロフト様は手当たり次第に助けすぎなんですよ……私の時もそうでしたし」
オットーさんも苦笑いを浮かべる。
そういえば、オットーさんも俺に助けられた内の一人だった。嫁さんの方だけど。
「あ、嫁さんで思い出した。前にリアカーで拾った一家の父親さんだ」
「はいっ! そうです、その時のです!」
嫁さんって言葉でピンと来た。
なんか買い出しの帰りに拾った人だ。
って言ってもリアカーで拾って、そのまま町に居着かせるのも何回かしてるんだけどね。
「まあまあ。積もる話は釣りでもしながらにしましょうよ」
残る一人は釣りの常連さんだ。割と見かけることが多い。
今日は居ないみたいだが、他にも何人か常連が居る。
つまり、それだけ俺の町も趣味に時間を割く人が増えてきたってことだ。
生活に余裕があれば、人は趣味に時間を使うもんなんだな。いいことだ。
「どっこいしょ」
真っ平らな石の椅子に座る。
どう見ても人工物なのは、もちろん俺が釣りをするために作ったからだ。
だって釣りには椅子欲しいし、無造作にやってると俺の近くに人が寄ってくるし。
近くで釣りをされて糸が絡まるのが嫌だからね。距離をある程度離して椅子を置いておくと便利なのだ。
会話は出来る程度の距離にしておくけどね。
「そういやオットーさん達はエサは何使ってるんです? 虫?」
「ですね。その辺で拾ってきたのをちぎって使っています」
だよね。
普通は現地調達するよね。
でも、虫をエサにするとリリセラが嫌がるんだ。
虫を食べた魚なんて食べたくないって。
普段魚が虫を食べるのはしょうがないけど、虫をエサに釣った魚は嫌だと。
直前に虫をムシャムシャしてるのは嫌だと。
「ってことで練りエサを持ってきました。欲しい人ー?」
「ありがとうございます。魚も喜びます」
「いや、魚は喜ばないでしょ」
そうして4人並んで釣りを始めるのだった。
ぼんやりと、雑談しながら。
◇
数時間もすると飽きた。
雑談をしながらの釣りだけど、長々としていると飽きが来る。
別に飽きやすい性格をしてるわけじゃないけど、一日中やるってのはちょっとね。
釣果は5匹とそれなりだった。
前はもっと釣れたんだけど、魚も釣りという危険なものを警戒し始めたようだ。
人に慣れたのかな? 雑談してるから音で警戒される?
こういうのをスれるっていうんだっけ?
「じゃあ俺は先に帰りますんで、今日はどうします?」
「自分は3匹お願いします。町長はどうです? 釣果は」
「私は6匹でしたね。なので、2匹ほどお願いします」
常連さんとオットーさんが食いついてくる。
別に釣りにちなんだ訳ではない。たまたまだ。
「なんの話ですか?」
初参加の父親さんには当然だがわからないようだ。
「俺が来た時は最後に釣り以外で、魚を捕まえてあげるんだよ。持って帰った時にたくさんいると、家族に喜ばれるでしょ? 見栄ってやつですよ」
「なるほど、そういうことなら私も4匹程お願いします」
「お任せを」
えーっと、3の2の4だったか、計9匹だ。
ん? 魚は9尾とか言った方がいいのかな?
まあいいや、生き物なんて全部”匹”でいいでしょ。ややこしい。
それにしても結構多いな。
やっぱり男の人って見栄っ張りなのね。なんつて。
さあ、ささっと捕まえて帰りますか。今日の料理当番が料理を始めてしまう前に。
そして、持ち帰る俺のバケツにも8匹の魚が入っていた。