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おまけ15:そういう気分

ラブい話が書きたくなりました。

「トーヤっ、さまっ」


 日差しの柔らかさがどことなく乳白色な印象を漂わせる昼下がり。

 早く帰って来れたからか、二人きりだからか、家に着いたと同時にリリセラが腕に抱きつく。


 リリセラが抱きつくと胸が当たる。

 ぽよぽよ当たって右腕が嬉しそうだ。

 対して左腕は可哀想だ。


「どうした? いきなり。上機嫌なのはいいけど、突然に普段しないような行動をされるとちょっと困惑する」


 前から思っていたんだが、こうやって抱きついた時に胸が当たるのを女性はどう思っているんだろう。

 気づいてないのかな? 気づいてないなんてあり得るのかな?


 聞けばすぐわかるんだけど……聞かないでおこう。


 知らない方が素敵なことってあるじゃん、やっぱり。

 計算でやられてた場合哀しくなるじゃん、やっぱり。


「そういう気分なんです」


 なるほど、確かに気分は大事だな。

 俺も気分次第で突拍子もないことするし。


「そうか、そういう気分ならしょうがないな」


「はい、しょうがないんです」


 何が面白いのかわからないけれど、ふたりして笑う。

 乳白色な印象を受ける笑顔だ。

 どんな笑顔だ。




「それにしても二人きりの時のリリセラは甘えたがりだな」


 末っ子な女の子って感じがすごくする。


「ダメですか?」


「まさか、ダメだなんて俺がいうと思うか?」


「普段のトーヤ様なら言います」


 はい、間違いなく言いますね。よくわかっておられるようで。


「確かに言う。間違いなく言う。ちょっと変な笑いが出た」


「ですよね」


「でもほら、二人きりの時はこうして優しくしてるからいいじゃないか?」


 いや、普段でも優しい時は優しいぞ、俺。

 ただちょっと、意地悪な顔の方が軽くて出てきやすいだけだ。


 浮かれているリリセラを見ると、つつきたくなるんだ。

 あうあう言ってるリリセラを見ても、つつきたくなるんだ。


 どっちにしてもダメじゃないか、普段の俺。


「いつもお優しいとワタクシは嬉しいのですが」


「それはちょっと出来ない相談かな」


 リリセラに意地悪するのは俺の趣味だから。


「それは残念です」


 リリセラもそれは諦めているようだ。


 そろそろ付き合いも長いしな。


 いや、そろそろか? 

 付き合いも長いってどれくらいから言っていいんだろう。

 一年はまだ短いか? 二年は? 流石に五年も一緒なら長い付き合いと言ってもいいと思うんだけど。


 まあいい。

 本気で嫌がるようなことはしないようにするから、そのまま諦めててくれ。




「リリセラ、ちょっと左手を広げて出して」


 付き合いが長いの下りからちょっと思いついた。

 この間、村の人ともそんな話をしたし。


「なんですか?」


 疑問符を浮かべながらも、言われるままに左手を前に出すリリセラ。


 俺は自分の人差し指に光を集めて、そのままリリセラの薬指になぞるように光を巻く。


「なんですかこれ?」


 左手を前に突き出し、薬指に巻かれた光を眺めるリリセラ。


 何も知らないはずなのに、日本に居た頃にドラマなどで見た動作と同じ動作をするリリセラが少し面白かった。


「なんですか? これ」 


「何回も聞かないで。俺の世界では……まあ、ちょっとした儀式だよ。仲の良い男女がする」


 思いつきでやってみたはいいけど、やっぱりなんか違うな。


 積み重ねた知識というか、そういうものを相手が持ってないと独りよがりになってしまうんだな。覚えておこう。


「そうなんですか? トーヤ様の世界には魔法はなかったように聞いておりましたが」


「ああ、いや。本当は金属の指輪を使うんだよ。でも、光の指輪の方がなんか良いじゃん。せっかく魔法が使えるんだから」


「綺麗ですね。指の一箇所にだけ付けるというのも不思議ですが」


 独りよがりでもそれなりに喜んでくれたようで、はしゃぐリリセラ。

 なんだかこっちが恥ずかしくなってきてしまった。


「はい、おしまい」


「あっ、消えちゃいました」


「俺が消したんだよ」


 笑うリリセラ。

 俺も笑う。






「リリセラ、もう料理を作り始めようか」


「もうですか? 早すぎませんか?」


「温めるだけの状態まで作って、外に出て少し散歩でもしようか」


 はしゃぐリリセラを見て、ちょっとだけ気まぐれで行動してもいいかなって気になった。

 手でも繋いで村を歩こう。

 山の方……はちょっと遠いから、一日の木の方でも行ってみるか。


「いいんですか? この時間だと、まだ人が居ると思いますよ? ノイエさん達も」


 もちろん普段だったら人前に出るのは嫌だって言うけど。

 間違いなく村人に冷やかされるだろうけど――


「そういう気分なんだ」


「そういう気分ですか。それは素敵な気分ですね」


 そう、今日はなんだかそういう気分なんだ。

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