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おまけ13:散髪

「ねえ、やっぱり怖いわ」


 ノイエの怖気づいた声が耳に心地よい。

 別にそういう趣味があるわけではない。

 ではなんなのか、と聞かれたら、そういう日もあるということだ。



「お客さーん痒いところは無いですかー?」


「トーヤのその喋り方もなんだか怖いし、そのハサミとかいうので髪を切られるのも怖いわ」


 もう何度もしているのに、未だに慣れないようだ。


 ちなみにハサミじゃなくて、これすきバサミだから。

 実際にこれで正しいのかはわからないけど、まずすきバサミで梳いてから普通のハサミでカットする、の流れだ。


 ちなみにちなみに、カットの時はシャンプーとかそういうのも特にない。

 だから痒いとか言われても困る。


「何度やっても慣れませんねお客さん。仮に怪我してもすぐ治すから安心だよー」


「その、治すから大丈夫みたいな考えが怖いのよ」


 なるほど、それもそうだ。一理ある。

 じゃあ、この辺でおふざけは終わりにしてちゃんとやりますか。



 というわけで、髪をミストでちょっと湿らせる。


 昔は、なんで濡らすのかわからなかったけど今ならわかる。

 髪の癖を取るためだ。


 少し濡らすことで重くして、ストレートに近い状態にする。

 実際に正しいかはわからないけど、こうすることで少し切りやすい。


 髪を湿らせたら、適当に梳く。

 ハリネズミだか、ヤマアラシ的な硬い毛で作ったクシを通して、まとまった部分を整えて、クリップで挟んで、ひと房ずつ持って切っていく。


 梳くのに、クリップとかクシとかは要らないんだけど、何となくだ。

 その方がサマになっているから何となくやっている。






 …………このぐらいかな?


 ある程度梳き終わったら、風の魔法とクシを使って切った毛を集める。

 その後、前髪だ。


「じゃあノイエ、前髪切るから目をつむっていてくれ」


「わかったわ。任せる」


「はい、お任せ」


 すきバサミから普通のハサミに持ち替え、前髪のターン。

 こんどこそ、クリップの出番だ。


 ちょっと邪魔な部分をどかして、クリップで留める。

 クリップは木と、バネっぽくした針金を組み合わせて作った。


 こんな100円均一に売ってそうなしょぼいクリップなのに作るのは結構苦労したもんだ。

 

 前髪は、ハサミを縦に入れる。横に入れるとパッツン髪になってしまうので。

 俺、パッツンあんま好きじゃないし。


 長さはちょっと長めに切る。

 濡れた髪が乾くとふんわりしてしまって、結構短くなるんだ。これが。


 それから、全体を見て、細かい部分を整える。





「はい、終わり」


 ここまでで、大体20分から30分位かな?

 ノイエはあまりこだわりがないから楽チンだ。

 大体俺の趣味でできる。


 今の俺って、床屋さんになれるんじゃないかな。

 美容師はちょっと無理そうだけど。


 そういえば床屋と美容院の違いってなんだろ? オシャレ度?

 結局よくわかってないならどっちもダメじゃねーか。


 まあ、それは置いといて。


「次の方どうぞー」


 なんか医者っぽくなっちゃったな、まあいいか。

 医者にもなれる床屋さんだ。


「あーい」


 次はアンコか。

 アンコもざっくざっく切って、短くすればいいから楽チン……

 と思うじゃん?


 アンコは髪だけじゃなくて、切る箇所多いから大変なんだよね。

 特に尻尾。


 ブンブン振り回すから切りにくくってしょうがない。


 言えば動かすのやめてくれるけど、それも数秒しか持たないし。

 きっと脳みそとは別回線で繋がってるんだ。


「ほら、アンコ動くなって」


「あーい」


 動きが止まった間に素早くカットする。

 押さえつけてカットするのはもちろんノーグッド。

 大体上から順番に切っていく。


 そういえばアンコはノイエとかと比べて髪が伸びにくいな。

 種族的な問題なんだろうか。


 雑念が混ざりながらも、ハサミを入れる。





「はい、終わり。もう動いていいぞ」


「あーい」


 アンコのカットが終わったら次はリリセラだ。


 リリセラはなんかこだわりがあるらしく大変だ。一番気を使う。


 ノイエよりもアンコ、アンコよりもリリセラの方が大変で、どんどん面倒になっていく。

 順番逆の方がよかったんじゃないかな?


「……飽きた」


 だってもう3人目だし、リリセラは注文多いし。


「飽きないでくださいよ~」


「だってリリセラ失敗すると泣くんだもん」


 町に作った床屋の上達を待って、そっちで切って欲しい。


 ただ、ハサミすら知らなかった床屋が上達するのは、まだ時間が掛かりそう。

 この素人でありながら独学のベテラン、十矢様の方がまだマシだ。現状。


「だってワタクシ、人前に立つんですよ?」


 なるほど、それがリリセラの言い分か。

 でもさ、それって――


「それを言ったらノイエとアンコも人前に立つけど? お前だけじゃなくね?」


「ノイエさんとアンコさんはいいんです」


 えっ? 何が? 何がいいの?


「ちょっと、聞き捨てならないわね」


「何? どういう意味?」


 リリセラの暴言を聞きつけたノイエとアンコが集まる。


 アンコなんて純粋に意味がわからなかっただけっぽいのに、「もう一回言ってみろ」みたいな意味に聞こえるもん。俺もちょっとビビる。



「あー2人共ちょっと待った、ホントに集中力切れるから後でにしてくれ」


「しょうがないわね」


「ご主人の髪も切らないとだしね」


 素直に離れてくノイエとアンコ。

 失言だったと落ち込むリリセラ。

 この後、まだ髪を切らないといけない俺。



 床屋の人よ、お願いだから早く任せられるくらいに上達してくれ。

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